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コラム・弁護士

 
   

関弁連寄稿
「過酷!霞ヶ関→立川支部全踏破録
その1

鈴木 周

2018年2月

弁護士 ・ 鈴木 周

それは5年ほど前のことでした。その日、私は横浜地裁で午前10時の弁論に出廷したのですが、次の予定は川崎支部の午後1時10分の弁論となっておりました。「一旦、新宿の事務所に戻っても20分位しかいらんないな。かと言って、すぐ移動したら2時間も余るし、困ったな。」としばらく悩んだ後、「…もしかして、歩いて行ったら丁度いいんじゃね?」と思いついたのです。私は、肉体鍛錬大好きの筋トレオヤジなので、春夏は減量期と決めており、しょっちゅうウォーキングをしているので、歩くのが大好きなのです。

とはいえさすがに間に合わないとエライことなので、その日は実行しませんでしたが、地裁本庁→支部ウォーキングは楽しそうなので、支部探検隊の有志を募って、平成28年の春、横浜地裁で午前10時の弁論を傍聴した後に、川崎支部まで13kmの道のりを歩いてみました。なにしろ隊員たちは普段全然運動しないモヤシみたいな連中ですので、「速過ぎる」だの「足が痛い」だのいろいろ泣き言を言っておりましたが、なんとか午後1時前には川崎支部に到着致しました。なので、朝イチ横浜、午後イチ川崎は徒歩で可能です。おそらくどなたでも出来ると思います。やる人もいないとは思いますが。

ちなみに皆さん、関弁連管内で、本庁→支部間の距離が一番短いのはどこかお分かりでしょうか。横浜川崎間の13kmは多分2番目に短い区間です。詳しく調べたことはないので絶対とまでは言えませんが、一番短いのはおそらく前橋→高崎間で、約10kmです。「支部」というからには、本庁から遠く離れているのが普通ですから、大きな都市同士が隣接しているという特殊事情がないとこのような近距離にはなりません。

この川崎ウォークで味をしめ、「次は東京地裁本庁から立川支部まで歩いてみたいものだよ。」と思っていたのですが、丁度この間の平成29年9月30日(土)、5月から続けていた減量期間が終了するため、フィナーレを飾って長期距離ウォークを敢行することに致しました。距離は約37kmもありますが、江戸時代の旅人は一日八里から十里歩いたと言われておりますので、大体一日分ということになり、歩けない距離でもないと思います。

さすがに支部探検の隊員は誰も付いてこられないと思いますので、声はかけませんでしたが、たまたま飲み会で一緒になった山本純一隊員(二弁)を誘ったところ、当初激しく嫌がっていたものの、酔っ払ううちに気が大きくなり「じゃ、ま、行けるところまで。」ということで、渋々ながら霞ヶ関に来てくれることになりました。

当日9月30日は朝4時に目を覚まし、後の比較のために朝食後体重を計ったところ、67.2sで、体脂肪率は18.2%でした。せっかく頑張って腹筋割ったのに18%なんて絶対ウソですが、特売で2000円で買った体組成計なので仕方ない、絶対値は無視して数値の増減だけ参考にすることにしております。その後、ドリンクとプロテインを大量に持って、自宅のある府中駅から朝4時59分の特急に乗り、新宿を経由して丸の内線で霞ヶ関まで辿りついたのが5時45分です。普段背広で仕事をしている霞ヶ関に、短パンTシャツで登場するのもなんか恥ずかしいですが、知人友人など絶対いないので心配ご無用です。やはりというか、土曜日の早朝なので当然ですが、普段ごったがえしている霞ヶ関駅には一っ子一人おりませんでした。なのに電気は煌々とともり、エスカレーターも無人のまま静々と動いており、まるで私が地球上で一人だけ生き残ったような心持でした。小松左京の世界です。

そうこうしているうちに山本氏が到着しました。が、「ちょっと、何その格好? ジーパンに革靴って、やる気あんの?」ということで、彼はウォーキングの厳しさをまるで理解していない様子で、出発前から前途が不安になりました。

関弁連寄稿 「過酷!霞ヶ関→立川支部全踏破録 その1

本庁の前で「がきデカ」みたいなポーズで記念撮影をして(偶然です)、「どうせならキリのいいところで出発しよう」ということで6時まで待ち、それじゃヨーイドンと歩き出したところで、山本氏から「ゲゲっ、速い! そんなの絶対無理!」などと、早くも泣きが入りました。「そんなこと言ったって、このペースで歩かないと、1時間に5km歩けないんだよ。頑張って新宿に7時に着こう。」と叱咤して、二人で桜田門からお堀端を歩きました。「一人じゃ寂しかろう。」と同行してくれるのはありがたいのですが、すいません、私の脳裏に「足手まとい…。」と言う言葉が浮かんでくるのは止めようもありませんでした。

しばらく皇居のお堀を歩きましたが、皇居ランナーが沢山走っており、逆行して猛速ウォーキングしている我々は大変な邪魔者でした。全員左周りで走っているのは何かルールがあるのでしょうか。そういえば陸上のトラックも左回りです。心臓が左についているので重くて傾くからでしょうか。しばらく歩いて三宅坂から最高裁前を通り、半蔵門から甲州街道を西に曲がりました。あとはひたすら真っ直ぐ、四谷から新宿方面に向かうことになります。しかし、実際に歩いてみて分かりましたが、都心の道は意外にハカが行きません。外堀通りとか、そういう大きな通りの都度止められる上、「あ、クッキーの泉屋本社だ。箱と同じ色だね。」「子供の頃はよくお中元とかで貰ったけど、今は見ないよなあ。なんでだろ。写真撮っとこ。」とか、「ここがサンミュージックで、岡田由希子さんの事件があったとこだよ。」「え、ホント? オレ好きだったんだよなあ。聖子ちゃんの背中見えるところまで行ってたのに残念だった。写真撮っとこ。」とかやりながらなので、モタモタと手間取り、新宿駅南口到着は予定より5分遅れの午前7時5分でした。もっとも、震災のときに、有楽町から歩いたときは1時間30分でしたので、まずまずのタイムと言えるでしょう。

あーヤレヤレ小休止、とか言ってバスタ前で写真撮っていたら、なんと山本氏が「じゃ、僕はここで。」とか言い出したので、「え? もう? 『行ける所まで』って、アナタまだ5kmじゃないのよ。」と言ったのですが、「いや夕方からテニスだし、勘弁して下さい。」ということで、中央線に乗ってピューと帰ってしまいました。ついてきてくれた感謝も忘れ、「この根性なしが」とも思いましたが、まあ、5kmハイペースで歩いたので、仕方ないところもあります。さらば山本純一(49歳)、あなたは(まあそれなりに)頑張った。

そういうわけで新宿からは単独行になってしまいました。ここからも、国道20号(甲州街道)をひたすら西に向かって歩くことになります。私は一時間に5km位歩けるので、道を渡ったりとか多少のロスを考えて40km弱としても、計算上は8時間、つまり午後2時に着けることになります。お昼も食べますし、最後はペースダウンするでしょうから、実際には3時頃着けば及第点でしょうか。

関弁連寄稿 「過酷!霞ヶ関→立川支部全踏破録 その1

新宿から高井戸まではずっと中央高速の高架下を歩くことになります。酔っ払って帰るときにタクシーで通っている道ですが、改めて歩いてみると、速度が遅い分、いろんなものが目に入ります。いつも一瞬で通り過ぎる西新宿のお寺の前には、「借金のない人は金持ちである。病気でない人は幸せである。」という今月の標語が貼ってありました。なんとなく「そうか、そうだよな。」と説得されかけたものの、「よく考えると、病気や借金苦の人がそう思うのはさておき、そういう人見て『オレは幸せだなあ』とか思っちゃいかんだろ。」と考え直し、入信することなく先を急ぎました。

高架下なので、眺めはつまんないのですが、日陰になっていて涼しく、体力の消耗は防げます。万一、「もうダメ。動けない。」となっても、京王線沿いなので、その辺の駅から電車で帰ることもできるので安心です。新宿から1時間歩いて明大前(霞ヶ関から10.5km)を過ぎたところで、一旦休憩をし、セブン-イレブンでおでん(ちくわ、大根、ガンモ)とおにぎりを購入しました。おでんをアチチと食べたところ、減量中の肉体に栄養がいきわたって、見る見る元気になり、セブンの広告どおり「ありがとう、おでん」という感じでした。少し多かったので、おにぎりは途中で食べる用にとっておきました。

関弁連寄稿 「過酷!霞ヶ関→立川支部全踏破録 その1

明大前を過ぎる頃から、沿道の高層ビルが少なくなり、コンビニもビル中店ではなく、路面店が増えてきます。お店はコンビニのほかは、ラーメン屋さんがすごく多くて、まだ8時過ぎなのに、もう開店しているお店もありました。タクシーの方が仕事終わりに利用するのでしょうか。途中のとあるお店で、「雑居まつり」という謎のお祭りのポスターと、「身体 1970円」という謎の求人広告を発見したので撮影しておきました。新聞の三行広告じゃあるまいし、ちゃんと「身体介護 時給1970円」と書けばいいのに、これじゃ人身売買みたいです。しかも、この「身体」の横の無駄なスペースはなんなんでしょうか、「介護」と書いたらどうなんでしょう。

高井戸(13km)まで歩いたところで、ずっと一緒だった中央高速が北に向かい、ここからは高架がなくなります。つまり、場所によっては日向を歩かねばならなくなります。この日は最高気温26度だったので、すごく暑いというわけではありませんでしたが、やはり日向を歩くとなると、汗もかきますし、体力の消耗が格段に激しくなります。なので中央高速には「ありがとう、サヨナラ」と心の中で声をかけ、真っ直ぐ西に向かいます。

高架がなくなり、沿道も低い建物が多くなって、視界が開けてきました。新宿あたりに比べると多少狭くなったものの、まだまだ歩道も広くて歩きやすいです。ウォーキングと歩道の広さはすごく関係が深くて、このように歩道が広くて平らならば足腰への負担は少ないのですが、狭い歩道は、歩道幅全体に家々や脇道からの傾斜がついていますので、その都度力を入れて平衡を保つ必要があり、危ないですし、スタミナの減りも早くなります。

関弁連寄稿 「過酷!霞ヶ関→立川支部全踏破録 その1

千歳烏山(15km)までを丁度3時間で歩き、午前9時になりましたが、まだまだ元気一杯です。ハイペースで歩いているのですが、気持ちよーくなってきて、次第に頭がポヤーっとしてきます。ウォーキングハイです。本当は大変苦しいはずなのに、脳内でアドレナリンだのエンドルフィンだのテストステロンだの(これは違うナ)が、大量に分泌されているようです。とはいえ、調子に乗ってずっと続けていると、いつの間にか川の向こうから亡父がオイデオイデしかねないので、23区を抜けて仙川についたら休憩しましょう。調布市の仙川にはたしかキューピーの巨大社屋があり、その前で休もうと思っていたのですが、全然見つからず、「なくなったのかなあ…。」と諦めて、住宅展示場のベンチに座っておにぎりを食べました。部活に行く途中の女子高生が、信号待ちで、「このオジサン何かしら」とジロジロ見てきます。コラ、こっちだって恥ずかしいんだ、無遠慮に見るんじゃない、まあ無理もないけど。

5分で休憩を終え、再び歩き出すと、すぐキューピーがありました。まだ着いてなかっただけでした。「マヨテラス」という展示館が併設されており、「マヨテラス! すごく見たい! 絶対レアなマヨの販売とかあるし!」と、心がグラグラしましたが、目標タイムもあるので、泣く泣く西に向かいます。

 

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