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コラム・弁護士

 
   

憲法9条2項と自衛隊
--法律文言のメルトダウン

後藤 富士子

2018年11月

弁護士 ・ 後藤 富士子

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去る10月10〜14日に韓国済州島で「国際観艦式」が開かれた。日本は自衛艦旗をめぐる悶着が原因で、参加を中止した。自衛艦旗の「旭日旗」は旧日本軍で使われたもの。だから韓国内にはこの旗に対して「日本軍国主義の象徴」との批判があり、日本に自衛艦旗を使わないよう間接的に要請したのである。

自衛艦旗は、国連海洋法条約で掲揚を義務付けられている、所属を示す「外部標識」である。日本は当初、旭日旗を掲げて参加する方針であった。しかし、韓国世論が「戦犯国の戦犯旗だ」などと「旭日旗」に対する抵抗が強かったこともあって、「旭日旗を降ろすなら参加しない」と参加を見送った。

ところで、問題の国連海洋法条約29条は「軍艦」の定義規定であり、「この条約の適用上、『軍艦』とは、一の国の軍隊に属する船舶であって、当該国の国籍を有するそのような船舶であることを示す外部標識を掲げ、当該国の政府によって正式に任命されてその氏名が軍務に従事する者の適当な名簿又はこれに相当するものに記載されている士官の指揮下にあり、かつ、正規の軍隊の規律に服する乗組員が配置されているものをいう。」と定められている。すなわち、「自衛艦」は、国際法上「軍艦」にほかならない。そうすると、自衛隊も「軍隊」ということになる。

--2--

日本国憲法9条1項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定め、第2項は、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と定めている。すなわち、9条2項によれば、自衛隊は「軍隊」であってはならない、のである。一方、国際法上、自衛隊は「軍隊」である。

こうなると、憲法9条2項は法規範として死滅している。法律文言のメルトダウン! 。

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同じような「法律文言のメルトダウン」現象は、日本では随所に見られ、法治国家というより「放置国家」の様相が顕著である。

たとえば、民法818条3項で「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。」と定められているのに、ある日突然に妻が子どもを拉致同然に連れ去って父子関係を断絶させても、父の親権妨害として不法行為責任が追及されることはない。それどころか、離婚後の単独親権者指定に際しては、連れ去った親が「監護の継続性」を理由に、親権者と指定される。むしろ、離婚後の単独親権者指定を目指して、離婚前の婚姻中に「連れ去り」「引き離し」をするのである。こうなると、民法818条3項の規定はメルトダウンしてしまう。

また、婚姻費用分担について、民法760条は「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めている。ところが、実務では、収入だけで算出する「標準算定方式」という「算定表」で決する。すなわち、「資産」も「その他一切の事情」も考慮されないのだから、条文がメルトダウン。

さらに、離婚に伴う財産分与について、夫婦間で協議が調わない場合、民法768条3項は「家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」と規定している。しかるに、実務では、「婚姻関係財産一覧表」を作成させて、夫婦の財産の合計の半分から分与をうける側の財産を控除した残額を分与させる。つまり、機械的に夫婦の名義の財産を2分の1に清算するのである。ここでも、条文がメルトダウン。

憲法でも、同じ現象がある。憲法76条3項は「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と定めている。しかるに、裁判所法では、司法修習を終えて採用される裁判官を「判事補」とし、27条で、判事補は、「他の法律に特別の定めのある場合を除いて、一人で裁判をすることができない」とか、「同時に二人以上合議体に加わり、又は裁判長となることができない」と規定されている。すなわち、日本では、憲法76条3項の裁判官ではない「裁判官」が存在するのである。

このように条文がメルトダウンしたのでは、「法の支配」も「法治」もあり得ない。

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ところで、安倍政権は、憲法9条について改正を企図している。まず、9条1項2項には手を触れず、「9条の2」として次のような条文を加えるという。その1項は「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置を執ることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。」とし、第2項は「自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」である。

すなわち、自衛隊は「自衛の措置をとるための実力組織」であって、9条2項が保持しないとしている「軍隊」ではない、という論理である。だからこそ、安倍首相は、「自衛隊を憲法に明記するだけで何も変わらない」と説明するのである。

しかし、少なくとも国際法上、自衛隊は「軍隊」である。したがって、国際法上の「軍隊」を国内法で「自衛の措置をとるための実力組織」と言い換えても、「軍隊」でなくなるはずがない。このような、法律文言をメルトダウンさせることが横行したのでは、もはや日本は法治国家とはいえない。

「安倍改憲」問題は、根の深いところで、私たち市民の日常生活を律する法規範のメルトダウンと繋がっているのである。

 

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