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コラム・弁護士

 
   

宇宙論の概要解説書

穂積剛

2023年10月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. 「宇宙論」が好きだった  

中学生高校生の頃の私の夢は、物理学者になることだった。

そのために高校では物理学を勉強し、大学でも物理学科を専攻した。

しかし物理学とは数学を言語とする学問であり、その数学の方で挫折したため大学で物理学を断念したが、しかしそれでも理系的な話は今でも好きである。

特に中学生くらいの頃は、宇宙論や相対性理論、量子論などの解説書を夢中になって読んでいた。

今でもそのような話はとても興味があるので、たまにそうした理系の解説書を読んでしまうことが多い。

 

2.『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』(野村泰紀先生) 

今回、何気なく購入して非常に面白いと思ったのが、『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』(野村泰紀著、講談社ブルーバックス)だ。これはとても面白かった。

高校生くらいの頃から、宇宙の創成に関わるビッグバンの話やインフレーション、それに「超ひも理論」の存在は知っていた。「超ひも理論」の10次元時空間というのが、多数の宇宙の存在を意味する「マルチバース」と関係しているらしいことは知っていたが、実際にはどういうことなのか理解することができなかった。

しかしこの書籍には、これらの関係が非常にわかりやすく具体的に解説されてある。

この本を読んで初めて、ビッグバンとインフレーション、それに超ひも理論とマルチバースの関係の概要がわかってきた(ように思う)。これは久しぶりに興奮させられる読書体験だった。

ただし注意は必要だ。これらの概念についてまったく何の知識もない読者が読んでもさすがに理解できない。特に、相対性理論や量子力学の基本理念についてはほとんど説明がなく、大前提として書かれてあるので、これまでに宇宙論や相対性理論、量子論に触れたことすらなければ、理解は難しいだろう。あくまでも、理系の素養のある読者に限ってだが、非常にわかりやすく丁寧に解説されてある好著と言えると思う。

 

3.宇宙の物質構成とエネルギー構成 

宇宙を構成する物質が陽子や中性子、電子などの素粒子であることは誰もが知っているだろう。しかし、これは宇宙に存在する物質のうち、実に7分の1程度にしか過ぎない。そして残りの7分の6が何でできているかは、未だにまったくわかっていないのである。この未知の物質はダークマターと呼ばれている。

また宇宙全体に存在しているエネルギーの総量(相対論的な意味でのエネルギー)のうち、星や銀河などが占める割合は全体のたった0.4%にしか過ぎない。それ以外のニュートリノが1%くらい、ガスなどが4.4%ほど、このダークマターが26%で、全エネルギーの7割を占めるのがダークエネルギーとなっている。このダークエネルギーとは、宇宙に存在している質量によって宇宙の内部では引力が発生し、そのことによって宇宙の膨張はどんどん速度が遅くなっていくはずであるにも関わらず、逆に現在の宇宙は膨張を加速しているところ、その膨張の要因となっている斥力(互いに反発する力)を生み出しているエネルギーのことを指している。このダークエネルギーの正体は、真空状態自身が持つエネルギーではないかと考えられている。

 

4. 「宇宙の晴れ上がり」 

そして宇宙が膨張している以上、遠い昔に遡れば宇宙は非常に小さな範囲に密集していたと考えられることになる。どんどん時間を遡っていくとどうなるか。

宇宙が誕生してからおよそ138億年が経過していると言われるが、誕生から38万年後に大きな転換点が発生する。それは、宇宙が見えるようになったということである。この38万年の頃の宇宙の温度は3000度ほどもあり、それ以前の時期では宇宙が非常に高温高圧の状態にあったため、原子核(陽子と中性子からなる素粒子)と電子がバラバラな状態で飛び回っていた。38万年が経過したこの時期に、電子が原子核に捕獲されて初めて原子が構成されるようになった。そしてそのことによって、光が空間を通過することができるようになったのである。それ以前の光は、バラバラに存在していた電子に邪魔されて、空間をまっすぐに進むことができなかった。

この出来事は、「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれている。宇宙の遠い過去に起きたこの晴れ上がりのときの放射は現在でも観測することができ、これは「宇宙背景放射」と呼ばれている。宇宙のすべての方向から、ほぼ一様に送信されてくる放射となっている。

 

5.「放射」優勢から「物質」優勢へ 

38万年より前に遡っていくと、宇宙の誕生から5万年後の宇宙の温度は約1万度で、宇宙のエネルギー密度の比較でいうと、この時期の経過によって、「放射」のエネルギーが優勢だった時期から、「物質」のエネルギーが優勢となる時期に切り替わった。「放射」とは光やニュートリノなどのエネルギーを指している。この5万年より前の時期は「放射」のエネルギーが優勢で、5万年よりあとになると「物質」のエネルギーが優勢となり、そして100億年以降は「物質」のエネルギーより「真空」のエネルギー密度の方が優勢な時期となった。だから今は、真空のエネルギーによって宇宙全体の膨張が加速している状態にある。現在は、「物質のエネルギー」より「真空のエネルギー」の方が若干優勢になってきた時期にあたる。

 

6.原子核の組成 

さらに遡っていくと、宇宙誕生の10分〜1分くらいの時期に、今度は原子核が組成されるという出来事が発生する。

それより前の非常に高温高密の状態では、陽子と中性子は電子やニュートリノと自由に入れ替わり、陽子と中性子の数が固定せず、原子核を構成することができなかった。この10分〜11分の時期に初めて陽子と中性子の数がほぼ固定され(陽子6対中性子1の比率)、また陽子2個からなるヘリウムの原子核が構成された。ヘリウムの同位体であるヘリウム3、ヘリウム4の原子核もこのとき組成されている。

 

7.重い原子核の生成 

もっともこの時期に存在していた原子核は、ほとんどが陽子そのものである水素の原子核と、このヘリウム及びその同位体の原子核だけである。それより大きな原子核、すなわち酸素や炭素、窒素などの原子核や、金属などの原子核はこの頃の宇宙にはなかった。

これらはすべて、宇宙で恒星ができたあとに、恒星内部の核反応などによって生成された原子である。星が寿命を迎えて超新星爆発を起こしたとき、それによってこうした重い原子が宇宙空間に吹き飛ばされ、それらの重い原子を含む宇宙のガスによって新たに太陽系が構成されたことから、惑星が生成され、地球に生命が存在するようになった。

ちなみに金や銀、プラチナ、水銀、セシウム、ウランやプルトニウムなどの重金属類、それにキセノンとかヨウ素といった非金属類は、中性子星の合体によって誕生した元素である。

※周期表の詳細はこちら

 

8.「ビッグバン」の初期 

こうしてどんどん遡っていくと、ついには宇宙誕生から「10のマイナス25乗」秒程度まで遡れることがわかっているという。0.1秒が「10のマイナス1乗」で、0.01秒が「10のマイナス2乗」秒である。つまり「0.」のあとにゼロが24個並ぶくらいの短い時間である。

この時期の宇宙は、温度にして「10の21乗」度くらいの想像を絶する高温高圧だったと考えられている。この宇宙が急激に膨張して広がっていくこの状態が、「ビッグバン」と言われている宇宙創成時の出来事である。ここまでは、何となく感覚的にも理解できる。その前の出来事まで遡ってわかりやすく解説してくれたのが、この書籍のたいへんすぐれたところだと思う。

 

10.「ビッグバン」と「スローロールインフレーション」 

この現象はビッグバンより前に起きたもので、ビッグバンのように高温高圧によって生じた出来事ではない。およそ現実的には考えられない空想次元の話だが、このインフレーション理論を導入しないと、現在のように宇宙が一様でとても平坦(曲率が限りなく0に近い)であることを説明できない。そしてインフレーション理論が導き出す宇宙背景放射に関する予言が、現実の観測結果とほとんど完全に一致している事実がある。そのことからこのインフレーション理論は、ビッグバン以前の宇宙の状態を説明するものとしてほぼ間違いないものと物理学者らは考えている。

ではどうしてこのような急激な宇宙のインフレーションが起きたのか。それを説明する理論が「スローロールインフレーション」という考え方である。

物理学の素養がないと理解するのが難しいと思うが、初期の宇宙が持っていた「場」のエネルギーが、徐々に失われるとともにそれが宇宙の加速度的な急激膨張に寄与するエネルギーに転換されてインフレーションを発生させ、そして最後に急激に「場」のエネルギーが失われたときのエネルギーが、ビッグバン初期の高圧高温の宇宙のエネルギーに転化されたとする考え方である。

前半の、「場」のエネルギーが徐々に低下して宇宙のインフレーションを引き起こしたという部分を称して、ゆっくりと転がり落ちるインフレーション、すなわち「スローロールインフレーション」と呼ばれている。これが、1982年に考案されたモデルであり、現在もっとも有力だと言われている理論である。

 

11.インフレーション以前:超ひも理論とマルチバース 

この宇宙のインフレーションが、先に述べたように宇宙誕生から「10のマイナス38乗」〜「10のマイナス26乗」秒ほどのあいだに起きたという。

ここまで行くと、ではそのさらに前がどうなっていたのか知りたくなるのが人情というものだろう。そもそもなぜこの宇宙が誕生したのか。

ここから前については、理論的に確立されたと言えるモデルは存在していないが、有力な理論の一つと言われているのが「超ひも理論」と「マルチバース理論」の考え方である。宇宙は「ユニバース」と言われ、ここでの「ユニ」は「単一」といった意味になるが、「マルチバース」は多数の宇宙という意味となる。つまり宇宙全体は、実際には無数の宇宙によって構成されているという考え方である。まるで「パラレルワールド」のような考え方だ。ちなみに2021年の映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はこのマルチバースをテーマにしていた。

 

12.「超ひも理論」と量子トンネル効果 

ここで「超ひも理論」が登場する。実際にはこの世界は、9次元の空間と1次元の時間という10次元の「ひも」(波)によって組成されているとする考え方である。もっとも空間9次元のうち6次元は微少な領域に折りたたまれてしまっていて、実際には知覚することができない。しかしこの余剰次元である6次元空間は多様な構造をとることができるため、エネルギー状態の異なる多数の小さな空間として存在することが可能であり、安定的な空間としても優に「10の300乗」ほどの形態があり得るものと見積もられている。

このように無数の安定的なエネルギーを持つ余剰次元空間の構造はとても小さいので、その量子力学的効果を無視することができない。そして量子力学では、量子トンネル効果という現象によって、一つの安定的なエネルギー状態から別のさらに安定的なエネルギー状態を持つ形態に、移行・転換してしまうということが起こりうる。これは確率としては高くはないというが、量子力学的には確実に発生する現象である。

そしてこのような、量子トンネル効果による余剰次元空間の構造の転換によって、この宇宙には無数の新たな宇宙(泡宇宙)が次々と生み出されているとするのが「マルチバース理論」である。私たちの宇宙は、このように次々と生み出されている「泡宇宙」の一つに過ぎないというのが、この「超ひも理論」と「マルチバース理論」の帰結だという。

 

13.「人間原理」との関係 

ここにさらに「人間原理」の理論が関わってくる。

それはこの世界が、私たち人間が存在するためにあまりにも都合よくできすぎているのではないかという問題である。

この書籍の中ではその例として、「ヒッグス場の二乗質量パラメータ」という数値と、「真空のエネルギー密度」の問題を挙げている。

前者の数値は、理論的にはプラスマイナスで何十桁もの数値を取りうるパラメータだけれど、現在のパラメータから少し変えてみただけで、水素原子核以外のすべての原子核が存在しなくなってしまうという。けれども、理論的にあり得る範囲のうちどうしてこの数値になっているのか、それを説明することができない。

後者の「真空のエネルギー密度」についても、理論的に見積もられる数値は観測値よりも120桁も多い数字になってしまうという。「真空のエネルギー」とは前述したようにダークエネルギーであり、宇宙膨張に向けて働く斥力だから、こんなに大きいと宇宙は急速に加速膨張することになって、この世界に生命どころか星や銀河が存在することもできない。

実際には生成後138億年という今の宇宙は、前述したようにこの「物質のエネルギー密度」と「真空のエネルギー密度」がちょうど拮抗してきた時期にあたる。これより後の時期になるとやはり、宇宙は加速度的に膨張しすぎて物質自体が存在しなくなってしまう。たまたま今の時期だから、銀河や恒星があり人類が存在することができている。どうしてこんなにこの宇宙は、人間にとって都合よくできているのか。これが、「人間原理」の根本的な発想である。

 

14.「マルチバース理論」と「人間原理」 

この疑問を現在の宇宙論では、この「マルチバース理論」によって説明しようとする。

どうして宇宙の数値は、これほどまでに私たち人間にとって都合のいい値を取るのか。それは、「私たち人間が存在しているから」である。

別に、人間が宇宙の中心だと主張している訳ではない。そうではなく、たまたま人間の存在にとって都合のいい数値の宇宙だから、私たち人間が存在することができたという意味である。

例えばこの地球は、ハビタブルゾーンという水が液体で存在し得るちょうどいい距離に太陽から位置していて(近ければ水は蒸発してしまい、遠ければ氷になってしまう)、これほどまでに水が豊富で生命が育まれ生物が人類にまで進化してくることができた。どうして地球はこのように、生命の進化にとって都合よく恵まれているのか。

それは、このように恵まれた環境だったからこそ、生命が人類まで進化して、地球や宇宙を観測することができたからである。実際にはこうした恵まれた条件を満たさない恒星系や惑星が宇宙には無数にあるが、そうしたところは知的生命体が発生しないので、したがって観測者がいないということになるだけである。

同様にこの宇宙が人間にとってとても恵まれているのは、宇宙全体に無数に存在している「マルチバース」のなかで、特に現在の宇宙が(まったくの偶然で)恵まれた数値をとっていた結果、銀河や恒星が存在して太陽系のような星が発生し、そこに地球があって人間が生まれたからである。

したがってこの「人間原理」は、人間が宇宙の中心だと主張しているのではない。「超ひも理論」と「マルチバース」の存在を前提として、人間が存在できたから観測することが可能となったということを言っているだけである。

 

15.最後に 

この「超ひも理論」と「マルチバース理論」、それに「人間原理」の関係については、それぞれについて知っていたものの、このように統一的に理解できたのは初めてだった。

もっとも「インフレーション理論」までは現在の物理学ではほぼ間違いないものとされているけれど、それ以上の「超ひも理論」や「マルチバース理論」は現時点ではあくまで仮説の一つに過ぎず、いまだ確立した理論とはなっていない。

この本では、こうした内容をもう少し専門的に面白く解説してくれているので、興味があるならこの書籍を手に取っていただければと思う。

なお私がここに記載した内容は、自分なりに理解したことを記したものであり、正確ではないところが多数あると思うので、その点はあらかじめ了承していただきたい。

 

 

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