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コラム・弁護士

 
   

「相続差別」というけれど・・・

後藤 富士子

2013年7月

弁護士 ・ 後藤 富士子

婚外子の遺産相続分を嫡出子の半分とした民法の規定をめぐり、最高裁大法廷は7月10日、2件の弁論を開き、今秋にも従来の合憲判断を見直す公算が大きいと報道されている。

ところで、日本の違憲法令審査権は、法律の憲法適合性を直接審査する憲法裁判所型ではなく、通常の裁判所が具体的事件の中で適用する法律の憲法適合性を判断する司法審査型である。つまり、一般的抽象的な議論ではなく、具体的ケースにおいて「不合理な差別」というべきかが検討されることになろう。この点で、「婚外子差別の象徴」として「婚外子差別」一般論にすりかえることはできないし、欧米の動向をもちだして日本が遅れているというだけで解決できる問題ではない。ちなみに、ドイツやフランスでは、第1子をみれば婚外子が過半数というのに対し、日本では1995年に1.2%、2011年に2.2%というのであり、立法の前提となる事実が極端に異なる。今や事実婚や同性婚が珍しくない欧米諸国に比べれば、日本では家族の形や国民感情は様変わりしていないのである。

今回大法廷で弁論が開かれた2件とも「父の遺産」が問題になっているが、2001年に亡くなった和歌山県の男性のケースを毎日新聞の記事から紹介する。父は和歌山県内でレストランを営み、1966年にアルバイトとして働き始めた母と知り合った。父には妻子がいたが、母と共に暮らすようになり、姉(04年死去)と本人(女性)が生まれた。小学3年生の時、父母が結婚していないと知ったが、「家に帰れば父も母もいて、普通の家庭だと思っていた」から大きなショックはなかった。父が72歳で息を引き取り、遺産分割の段階になって民法の規定の壁に直面した。「命の重みが半分と言われている気がするんです。子供の権利に線引きは必要でしょうか」と女性は言う。一方、嫡出子側の言い分は、「幸せな家庭を壊され家から追い出され、約40年間精神的苦痛に耐えて生きてきた。婚外子側は生前に相当な財産を譲り受けた。どこが不平等なのか」という。「遺産相続の公平」という次元で考えると、嫡出子側に共感する人が多いのではないだろうか。むしろ本当の問題は、一夫一婦制の法律婚優遇制度についてどう考えるかにあると思う。つまり、「子どもの問題」ではなく、1人の男性をめぐる2人の女性の問題であろう。ちなみに、平成7年の最高裁大法廷判決は「法律婚を保護するための合理的差別」として合憲であると判示している。

しかし、母が自力で形成した遺産が問題になっている場合、母が法律婚で生んだ子と婚外子として生んだ子とで「母の遺産」の相続割合が半分になることは、「法律婚を保護するための合理的差別」という論理で説明することはできない。「母の遺産」については、民法改正を待つまでもなく、婚外子も嫡出子と同一と解することにすれば足りる。実際、ドイツでは、1969年法改正で婚外子の法的地位を嫡出子のそれと同等にしたが、それ以前の民法では、婚外子は母との関係では嫡出子の法的地位を占めることになっていた。

欧米の殆どの国で、婚外子を嫡出子と同一にする法改正がされているが、それでも異なる処遇をしているケースもある。たとえば、フランスでは、原則として同等であるが、姦生子(婚姻中の夫または妻がもうけた婚外子)については、嫡出子と競合する場合には、嫡出子の半分とされる。今回問題になった和歌山県のケースは、これに該当する。また、西ドイツでは、被相続人に配偶者または嫡出子がいれば、婚外子は法定相続分に代えて金銭による相続代償請求権を取得し、遺産分割から排除される。

翻って、「法律婚の保護」という大義名分は、皮肉なことに「選択的夫婦別姓」を標榜する法律家によって強化されている。「夫婦別姓」を選択したいなら、事実婚をすればいいのに、事実婚では婚外子差別があるから、優遇される法律婚の制度にしろと要求している。また、「有責配偶者からの離婚請求」の扱いも問題であろう。和歌山県のケースでは、40年も法律婚が解消されなかったことと婚外子差別と表裏一体である。日本で家族の形や国民感情が変わるには、破綻主義を徹底した無責離婚法と子の共同養育法に行きつかなければ無理である。それには、女性が経済的に男性に依存することを「保護する」法制度・政策を止めて、女性の自立を実現するためにこそ「差別撤廃」政策が講じられるべきである。

こうしてみてくると、日本の法律家は、法的紛争についての洞察力がなく、紛争解決の道具として合理的に法律を使う技量に欠けている。つまり、法律を教条にしてしまうから、現実に生起する事件に寄り添っていけない。婚外子の相続分についての民法の規定を「婚外子差別の象徴」「命の重みが半分と言われている気がする」といった「主観」の問題にするから、実質的に優遇されていない嫡出子から正当な不満が出され、逆に「法律婚の保護」へと国民意識を誘導する。司法は、現に生起している事件の中で実質的公平を図るために現行法を解釈適用し、その中から保護されるべき定型が形成され、法改正に繋げ・・・というように推移するのが自然である。法律が70年も変わらないのでは、国民意識も変わるはずがなく、その中で違憲判決がもたらす反動を、私は恐れる。憲法は、改悪され得るのである。

 

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