秋も深まったその日の朝、いつも通りに起きて、いつも通りに朝食を食べ、洗濯物を干して家を出た。雨が降らない限り駅までの道のりは自転車だ。
ほほをなでる風の冷たさを感じながら(「春のそよ風が薄くなった僕の髪をなでる」なんて歌があったっけ)、快調に駅までの道を走る。
駅に近いような近くないようなビミョーな距離の駐輪場に自転車を置く。駐輪場で駐輪場所を指示したり、自転車をきれいに並べたり、置く場所を守らない人を注意したりするおじさんがいる。この人に挨拶できたらちょっといい日だ。
空いたスペースに自転車を止めて、よっこいしょと自転車のスタンドを立てたときだ。
!!!
いててててっ!
左肩からひじのあたりまでに痛みが走った。
「何で?」と思いつつ荷台からカバンを持ち上げると今度はひどく痛む。
持ち上げたカバンを左肩にかけようとしたときなんぞ、痛いんだかしびれてるんだかよく分からなくなって、仕方ないので右手に持って左肩に乗っけた。
たかが自転車を運転してきただけなのに、いったい何が起こったんだ? 悪いものでも食べたか? 悪いムシに刺されたか? 地球外ウィルスに浸食されたか?
電車に乗っても左肩が上がらない。正確には「力を入れると痛いので動かせない」ので、「右手で左手を持ってつり革をつかませる」なんてコントみたいなことになった。
つり革がつかめない時点でふと気が付いた。
もしやこれが有名な五十肩か!?
ついに来たキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!
(ハイ、小生、まぎれもない五十おんなでございます。)
うちの母も確かに50過ぎのころにやたらと肩がこると言って、毎日肩をもんであげていたっけ。
四十肩というのもあって、人によっては四十でやってくる人もいる。
「つり革が握れない」「スーパーで牛乳と米を一緒に買ってこれない」「洗濯物を物干しざおに干せないので床置き物干しを買った」など、四十肩、五十肩あるあるはいろいろと聞いている。
この痛さと不自由さを乗り越えて人は大人になっていくのだ、きっと。
いつまでたっても精神年齢中二のシミズがいよいよ大人の扉を開くときが来た!大人の扉のドアノブに手をかけたのだ!
……………しかし痛い。
痛いものは痛い。パソコンのキーボードに左手を乗せるのも右手で乗せてあげるって、過保護にもほどがある。いちいち右手を使わなければならない事態はヒジョーに面倒である。
これではホイコーローを作ろうにも(作らないけど)鍋を振ることもできない。東京ドームの始球式のオファーが来ても(来ないけど)思いきって振りかぶることもできない。
そしてシミズは大人の扉を超特急で通り抜けるべくストレッチに励むことにした。こんな感じ。
力を入れると痛いだけで、腕が上がらないわけではないのを幸いに、右手で手首をつかんでとにかくぎゅうぎゅうと引っ張った。仕事の合間、家事の合間、テレビを見ながら、とにかく伸ばした。左手が右手より3センチくらい長くなってるんじゃないかと思うくらい伸ばし続けた。
結果、なんと3日で痛みはなくなり、すっかり元通りになってしまった。
大人の扉を通り抜けたのか、ドアノブに手をかけてまた閉めたのか、自分でも謎である。
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