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コラム・弁護士

 
   

離婚前に「共同養育」の構築を

後藤 富士子

2019年10月

弁護士 ・ 後藤 富士子

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民法は、未成年の子の父母は婚姻中は共同して親権を行うものとし(818条)、離婚するときはその一方を親権者と定めなければならないとする(819条1,2項)。この離婚の際の、共同親権から単独親権への移行を規定した民法の立法趣旨については、離婚後の共同親権は「理想論としてはともかくも、実際論としては、実行が困難であろう。父母が離婚すれば、住居を異にするだろうし、子はそのいずれかに引取られているだろうから、その父母が協議しなければ、親権を行使し得ないということは、子にとって甚だしく不利益であろう」という説明が今日まで繰り返されている。

しかしながら、論理的にも、親権の共同行使が困難になるからといって、単独親権への移行により他方の親の権利義務まで消滅させる必然性がないのみならず、そのことが子の利益にかなうともいえない。まして、交通・通信手段が飛躍的に発達した現代において、もはや実際面でも親権の共同行使が困難とはいえない。さらに、父母の婚姻中は共同親権としているのは、それが子の福祉にかなうからであることを考慮すれば、離婚によって例外なく単独親権とすることが子の福祉にかなうとはいえない。

むしろ、単独親権制では、離婚後の非親権者は事実上親たることを否定されるに等しい法的地位(ただし、養育費支払義務だけは強制される)におかれることになり、このことが親権争いを熾烈なものにしている。親権にしても、監護権にしても、子との関係では「親の権利」というよりも「親の養育責任」という意味合いが強いのだから、いたずらに子を巻き込む深刻な法的紛争に誘導するのではなく、実質的に「共同養育」が可能になる法的地位を父母に分属させることが合理的であることは明らかである。

一方、離婚後の子の監護について定めた民法766条1項では、単に監護者を定めることだけでなく、面会等の親子交流や養育費の分担その他子の監護について必要な事項を定めるとされている。すなわち、監護権についても非監護親に部分的に分属させる建前になっている。ちなみに、面会交流や養育費分担は、親権の一部と考えられる(川田昇・親権と子の利益15頁)。

なお、父母間で子を奪い合う紛争が増大し激化している背景として、核家族化の進展、子の出生率の低下、男女平等・共同親権の観念の普及などが指摘される。しかし、これらの背景事情は先進諸国に共通しているが、諸外国では、子どもの権利条約に則り、父母の法律関係にかかわらず共同養育の法整備がされているために、父母間で子を奪い合う紛争が増大激化しているわけではない。しかるに、日本においては、共同養育の法整備がされないから、親権・監護権への固執を招き、この種の法的紛争を増大激化させ、かつ解決困難なものにしているのである。

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講学上、親権の内容は、身上監護(民法820条〜823条)と財産管理(同824条)に大別されるといわれる。しかし、未成年子の独自の財産を親権者である父母が管理するというケースは稀であり、親権・監護権が父母間で争われたケースで寡聞にして知らない。したがって、親権のうち財産管理は捨象して、身上監護について検討する。

親権の内容とされる「身上監護」を法文でみると、@監護教育の権利義務(民法820条)、A居所の指定(同821条)、B懲戒(同822条)、C職業の許可(同823条)である。これらを個別具体的に検討すれば、父母が別居または離婚したからといって、親権の共同行使が困難になるわけではないことが理解できる。

まずBの「懲戒」についてみると、法文上は必ずしも共同行使が要件とされてはいないと思われる。しかも、今日では、この懲戒権?が児童虐待の温床になっていることが指摘されている。Cの「職業の許可」についてみると、児童福祉法等により未成年者の就業・就労について年齢的な制限が設けられていることに照らせば、未就学・小学生の子について親権者による「職業の許可」の共同行使という事象が現実に起きることは稀である。Aの「居所の指定」は、「子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。」と規定されており、親との同居を子に課しているものではなく、父母が別居した場合、直ちに共同行使ができなくなるものではない。親権者による「居所の指定」もまた「子の利益のため」に行われるべきことを鑑みれば、子が一方の親と同居することを親権者双方が合意することも共同行使の一態様であるし、合意はできなくても片方が指定を自制することにより解決できる。

これに対し、@の「監護教育の権利義務」は、親権の効力の中核・枢軸とされているが、「親権の効力」というよりも「親の固有の権利義務」と考えられる。ここで「権利」とされるのは国などの第三者との関係で親権の効力とされているのであり、「義務」とされるのは子に対する親権の効力である。そして、それは「子の利益のために」行使されなければならないとの制約が課されていることを鑑みれば、父母が別居や離婚した場合でもなお共同行使と解するのが法の趣旨にかなう。ちなみに、単独親権者による親権の行使はフリーハンドになり、「子の利益のために」という要件をチェックする親がいなくなることを意味する。

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親が親権を失う典型的制度として、親権喪失宣告と親権停止宣告がある。親権喪失事由は「虐待又は悪意の遺棄その他親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」で、かつ「2年以内にその原因が消滅する見込みがないとき」である(民法834条)。親権停止事由は「親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」で、かつ停止期間は「2年を超えない範囲内」とされている(同834条の2)。

この親権喪失や親権停止の要件と比較すると、単に「離婚」というだけで親権が剥奪されることの不条理・理不尽は誰の目にも明らかであろう。まして、離婚も成立していない段階で、親権者の一方を「監護者」と指定することによって、他方の「監護権」を喪失させ、「子の引渡し」を帰結するなど、言語道断というほかない。しかも、親権喪失にしても、親権停止にしても「2年」という期間を設けていることに照らすと、父母の別居と同時に子の争奪紛争が勃発し、離婚の前哨戦のように監護権をめぐる法的紛争と離婚に伴う親権紛争が2年以上も裁判で争われ、それによって親子関係に甚大な打撃を受けることは、司法制度の目的合理性の見地からしても異常と言わざるを得ない。

こうしてみると、少なくとも離婚成立前の段階で片方の親の監護権を全的に剥奪してその親権行使を不可能にすることは、現行法の解釈として著しい逸脱であることが明らかである。換言すると、離婚成立前の段階では、あくまで「共同親権」という法律関係を遵守し、具体的な共同監護態勢の構築に尽力すべきである。そうすれば、離婚後の単独親権制にもかかわらず、具体的な共同養育が可能になるはずである。そして、それが立法事実となって「離婚後単独親権制の廃止」が実現するのであり、「離婚後共同親権制の導入」によって共同養育が実現するのではない。

 

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