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コラム・弁護士

 
   

裁判所が認定したジャニー喜多川による少年への「淫行行為」

穂積剛

2020年2月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. ジャニー喜多川の死亡 

ジャニーズ事務所の創設者であり代表者であったジャニー喜多川が、2019年6月に死亡した。

ジャニーズ事務所という芸能界における一大勢力を創り上げ、数多くの才能豊かな男性アイドルを世に輩出したジャニー喜多川の力量は、まさに敬服に値するというべきであろう。この人物には確かに、偉大なる慧眼があった。

しかし他方で、ジャニーズ事務所に所属する未成年者の少年に対して、ジャニー喜多川がその権力を背景に「セクハラ行為」すなわち淫行行為を働いていたという話は、週刊誌などでまれに取り上げられることがあったものの、大手新聞社や放送局などが取り上げて報道することはほとんどない。少なくとも私はそのような報道を見たことがない。

 

確かに、大きな仕事をした人物の訃報において、その負の側面をあえて取り上げるべきではないとの考え方もあるだろう。

しかし、これが事実だとすればそれは明らかに未成年者に対する違法行為であり、各地方自治体において制定されている「青少年保護育成条例」が定める「淫行」に該当する犯罪行為である。こうした重大な問題を黙殺する方が問題ではないのか。

しかもジャニーズ事務所は、元SMAPの香取慎吾・草g剛・稲垣吾郎をTVに出演させないよう圧力をかけ続けていたのではないかと指摘され、実際にも「公正取引委員会」がジャニーズ事務所に対し、出演させないよう圧力をかけるような行為をすれば独占禁止法に触れる恐れがあるとして注意していた事実が2019年7月に報じられている。ジャニーズ事務所にはそれだけ強大な権力があるということであり、そうであればジャニー喜多川による問題行動についても、改めて指摘されて然るべきではないか。

 

2. 2002年5月東京高等裁判所判決 

そこでここでは、実際に2002年5月に出された東京高等裁判所による判決の内容を一部紹介する。裁判所がどのような根拠に基づき、どういった事実を認定したのかを知っていただきたい。

 

この事件は、週刊文春が1999年11月〜12月にかけて連続キャンペーンで報道した記事に対して、ジャニー喜多川本人とジャニーズ事務所が名誉毀損訴訟を提起したという事案である。争点はいくつかあるが、もっとも争いとなった点は、ジャニー喜多川が未成年者の少年らに対して「淫行」を実際に行ったのか、その行為を拒否するとデビューさせてもらえなかったり、ステージの立ち位置が悪くなったりするため少年たちが抵抗できないという事情があったのかという点であった。そして東京高裁は、この点をいずれも「真実であることの証明があった」と認定したのである。

 

3. 少年らの供述の信用性 

この東京高裁判決では、週刊文春が取材したうちの二人の少年について、その淫行行為が真実であったと認定している。一人(少年A)は最初の「淫行」当時15歳の中学校3年生であり、もう一人(少年B)が被害に遭ったのも中学2年生〜3年生の時期だと思われる。この二人はどちらも法廷に出廷し、裁判所での証人尋問において自らが受けた被害を具体的に供述したのである。もっともこの証人尋問は、少年らのプライバシーに配慮するため非公開で実施された。

二人の供述について東京高裁は、「これらの少年らの一審原告(ジャニー喜多川)のセクハラ行為の態様及びその時の状況に関する供述内容はおおむね一致するものであり、かつ具体的である」と認定している。

また週刊文春の取材班は全部で「少年12名に取材し、そのうち10名以上がホモセクシュアルの被害を訴えたこと、取材班は、少年らに対し、大事な点については、角度を変えて何度か繰り返し質問し、矛盾がないか確認したこと」が認定され、法廷で証言した少年Aと少年Bの2人を含めて「上記の少年らは、一審原告のセクハラ行為について具体的に供述し、その内容はおおむね一致し、これらの少年らが揃って虚偽の供述をする動機も認められない」から、「これらの証言ないし供述記載は信用できるものというべきである」と判示している。

 

4. ジャニー喜多川による「反論」 

こうした少年らの訴えに対して「一審原告は、少年らの供述するセクハラ行為について、『そういうのは一切ございません。』と述べるだけであって、ある行為をしていないという事実を直接立証することは不可能であるとしても、少年らが供述する一審原告からセクハラ行為を受けた時の状況やその他セクハラ行為に関連する事実関係について、一審原告らは具体的な反論、反証を行っていない。」と高裁は指摘している。

またジャニー喜多川は、20年以上も前に病気の手術のため性的機能を失っていたから、少年らが主張する淫行を行うことは不可能であったとも主張していた。しかしこの点についても東京高裁は、「医師の診断書である〈証拠〉には、一審原告が上記の手術を受けたことは記載されているものの、この手術の後遺症として一審原告が性的機能及び能力を失ったとは記載されておらず、また、この診断書の記載から、この手術による一審原告の傷跡の大きさ、形状等を理解することもできない。ほかにも、上記陳述書の手術による後遺症の存在や手術の際の傷跡に関する記述を裏付ける証拠は見当たらないから、この陳述書だけでは、上記の手術により一審原告が完全に性的機能及び能力を失ったとは認めることができ」ないと判示している。

自分から訴訟を起こしたにもかかわらず、このように曖昧な主張しかジャニー喜多川ができていないことに驚かされる。

 

こうした曖昧さは、ジャニー喜多川に対する原告本人尋問のときも同様だったようだ。

仮にジャニー喜多川の言うとおり少年らが嘘の供述をしているのだとすれば、どうして多くの少年らがわざわざウソの供述をするのか、その理由自体が理解しがたい。何しろこの訴訟は少年らが起こしたものではないし、また少年らは非公開の法廷で自らの被害を訴えているのだから、金銭目的でなかったことも明らかである。

 

5. ジャニー喜多川の法廷供述 

さらにジャニー喜多川からすれば、やってもいない非道なことをでっちあげられて身に覚えのない非難をされていることになるのだから、むしろ少年らに対して怒り心頭に発していておかしくない。ところがジャニー喜多川の法廷証言は、普通には考えられないような回答ばかりだったのだ。

高裁判決がその部分について言及した箇所を、少し長くなるが紹介しよう。

 

「『端的に言って、少年A君がうそをついたのはなぜなんでしょう。』、『申し訳ありませんが、端的に答えてください。少年A君がうそをついた理由としてあなたが思っているのは、少年A君がさびしいからだと、こういうことですか。』、などと質問され、明確な答えをするよう促される場面も何度かあった。そして、一審原告は、これらの質問に対する答えとして、『要するに、少年Bも少年Aも、同じところで今お世話になっていると思いますけれども、これも憶測です。ただ、僕は、少年Bも少年Aもそれぞれ自分で集めた子です。その子たちは、今、仲間になっています。で も、僕はそういうわびしい存在にあるわけです。要するに、みんながファミリーだと言いながら、そういうふうに考える人もいるわけです。だから、やっぱり、昨日も申し上げたけど、血のつながりのないというほどわびしいものはないと。という意味で、さびしかったからというのは、逆に、僕自身だったかもわかりません。』とか、『僕がさびしいからと、今、申し上げたんですけど。』などと必ずしも趣旨の明確ではない答えをしたほか、『(前略)だから、いわゆる印象づけると言ったらおかしいですけど、もう一度、僕が彼たちを全然恨んでも何でもいません。だけど、先生が、今、うそ、うそとおっしゃいますけど、彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです。はっきり言って。(後略)』と供述している。

 

これらの一審原告の供述内容は、少年らからいわれのない誹謗中傷をされ、しかも、精神的・社会的に未成熟な少年らに対しホモセクシュアル行為を行ったという道徳上も強く非難されるべき破廉恥な行為をしたとの虚構の事実を述べられたものであったとすれば到底考えられないものであり、また、前記のとおり一審原告の陳述書である甲30には、一審原告が昭和49年6月の手術により完全に性的機能及び能力を失ったと記載されているところ、その記載が本当であったとすれば、一審原告がホモセクシュアルな行為をしたとの少年らの供述がうそであると断定できる有力な根拠 になると考えられるにもかかわらず、上記のとおり、一審原告は、『だけど、先生が、今、うそ、うそとおっしゃいますけど、彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです。』と供述しているのであって極めて不自然であり、かえって、この供述部分は、甲30の記載内容の真実性についても重大な疑問を抱かせるものというべきである。」(太字引用者)

 

このようにジャニー喜多川は法廷での尋問において、少年らが虚偽の証言をしたものではないと事実上自分で認めてしまっていた。そのため東京高裁も、ジャニー喜多川による「淫行」行為は存在したものと認定したのだ。

 

6. 東京高裁判決の結論 

さらに続けてこの判決は、少年たちが断ることのできなかった弱い立場にあることを利用して、ジャニー喜多川が自己の欲求を満たしていたことについて、次のとおり指摘している。

 

「被害者である少年らの年齢や社会的ないし精神的に未成熟であるといった事情、少年らと一審原告との社会的地位・能力等の相違、当該行為の性質及びこの行為が少年らに及ぼしたと考えられる精神的衝撃の程度等に照らせば、少年らが自ら捜査機関に申告することも、保護者に事実をうち明けることもしなかったとしても不自然であるとはいえず、また、少年らの立場に立てば、少年らが、一審原告のセクハラ行為を断れば、ステージの立ち位置が悪くなったり、デビューできなくなると考えたということも十分首肯できるところであって、この点の前記〈証拠〉の各証拠は信用できるものというべきである。」

 

以上の検討の結果として高裁判決は、「一審原告が少年らに対しセクハラ行為をしたとの前掲〈証拠〉、証人少年A、同少年Bの各証言はこれを信用することができ、これらの証拠により、一審原告が、少年達が逆らえばステージの立ち位置が悪くなったりデビューできなくなるという抗拒不能な状態にあるのに乗じ、セクハラ行為をしているとの本件記事〈略〉の各記事は、その重要な部分について真実であることの証明があったものというべきである。」と結論づけた。

 

この高裁判決に対してジャニーズ事務所側は上告して争ったらしいが、最高裁はこれを棄却して高裁判決の事実認定が確定したようだ。

すなわちこの東京高裁の事実認定が、最終的な結論として確定したことになる。

そしてこれによればジャニー喜多川は、圧倒的な力関係の格差という立場の違いを利用して、年齢的に未成熟な状態にある中学3年生前後の少年たちに対し、広範に「淫行」を行っていた。これは明らかな犯罪行為である。

 

7. 大手芸能プロダクションへの「忖度」体質  

昨年の吉本興業に関する騒動では、宮迫博之と田村亮の二人は、犯罪行為をしていたわけではないにもかかわらず、未だに芸能活動に復帰することもできていない。

悪質さでいうなら、このジャニー喜多川による「淫行」は、圧倒的弱者である未成年者に対して行われた性的暴行という重大な違法行為であり、宮迫や田村亮がやったことの比ではない。こんな犯罪行為が事実であれば、ジャニー喜多川は本来ならこの時点で芸能界から追放されていたとしてもおかしくなかったはずだ。

それにも関わらずどうしてジャニー喜多川は、芸能界から追放されることもなく、死亡するまでジャニーズ事務所の社長として君臨し続けることができたのか。これは明らかにバランスを欠いている。

 

そのような事態に至らなかったのは、巨大な力を持つ大手の芸能プロダクションに対し、テレビ局を初めとするマスメディアが忖度して報道を控えてきたからだ。逆らえば自社の番組に人気タレントを出演させてもらえなくなる。そうした忖度体質のために、ジャニー喜多川のような非道な犯罪行為を続けていた人物の反社会的行為が隠蔽され、存続してきたのである。

仮にこの判決が出されたとき、ジャニー喜多川とジャニーズ事務所の問題行動がもっと広く報道され、ジャニー喜多川が追放されていたとしたら、冒頭で触れた元SMAPの3人に対するマスメディアからの追放といった問題も生じなかっただろう。

ジャニー喜多川が死亡したとはいえ、ジャニーズ事務所の問題隠蔽体質が改善されたものではない。未成年者が犠牲になる悲劇が今後も繰り返される危険はいくらでもある。ジャニーズ事務所に所属しているタレントたちに非があるわけではないが、芸能事務所の横暴に対する批判は、タブーを作ることなく毅然として行っていく必要がある。

そして、マスメディアの報道などくれぐれもそのまま真に受けないことだ。情報を取捨選別するリテラシーを日ごろから鍛えておくべきだろう。

(敬称略)

以上

 

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