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コラム・弁護士

 
   

「戦争反対」と「侵略反対」

穂積剛

2022年3月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. 「戦争」と「侵略」  

2月下旬から突然始められたロシアによるウクライナ軍事侵略に関して、全世界で「戦争を止めろ」という声が巻き上がっている。それはその通りなのだが、私はこの「戦争を止めろ」という言い方には強い違和感を覚える。「戦争」を、誰が止めればいいのか。

「戦争」しているのは、ロシアとウクライナである。戦争しているのはこの両国なのだから、「戦争を止めろ」という言い方は、ロシアとウクライナの両方に対して、軍事行動を止めろと言っていることになる。

しかしこの両者は対等なのか。そうではない。いま行われていることは明確に、独立国家であるウクライナの領内にロシア軍が侵攻してきているのだ。ウクライナ軍がロシア領内に侵攻して攻撃をしかけているのではない。このようなロシアの行為は「侵略」と表現するしかない。

つまり、止めるべきは「戦争」ではなく、「侵略」なのである。「侵略」しているのはロシアの方であって、ウクライナではない。ウクライナは「侵略」に抵抗して軍事行動をしている結果、「戦争」が起きているのである。それゆえ正しくは、「戦争を止めろ」ではなく「ロシアは侵略を止めろ」でなければならない。

 

2. 「侵略」に伴い発生する残虐行為 

過去を振り返ると、多くの「戦争」について実は同様の事象が起きている。

1931年に関東軍が引き起こした自作自演の満州事変(九一八事変)を皮切りに、日本が中国大陸に侵攻して「満州国」という傀儡国家を設立し、1945年8月に無条件降伏するまで中国での軍事行動を行い続けた。今回ロシアが「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」という傀儡国家を承認したやり方とそっくり同じだが、そのどちらも実態は「侵略」である。

だから今回の「侵略」でも、ウクライナの女性に対しロシア兵が性暴力に及んでいるとの報告がいくつもなされている。現段階ではその真偽が明白とは言えないが、これは日本軍が前線の中国の農村地域で多数の性暴力犯罪を引き起こしたのと同じ構図である。「侵攻」に正当性がないがゆえに、「侵略者」は常にこういう事態を引き起こす。敵を「対等な人間以下の存在」として捉えないと、「侵略」などできないからである。植民地支配にも正当性がないので、日本が韓国ではおおぜいの女性を事実上強制的に性奴隷にして酷使し、たくさんの犠牲者を出した。

 

3. 「戦争」と「天災」 

この「戦争」と「侵略」の大きな違いについて看過することができないのは、特にこの国においてこの概念が適切に区別されず、「戦争」があたかも「天災」であるかのように誤魔化され、「敗戦」を「終戦」と言い換えることによって、日本国と日本軍による「侵略」の実態が隠蔽されてきたからである。あたかもこの、誰にも責任がない地震か台風によって生じた不可抗力の災害のような「終戦」という言い方により、実際にはこれが「日本の侵略」であったことが糊塗されている。

「戦争」と「侵略」とをこのように決然と区別する立場からは、その責任者を明らかにして責任追及を徹底的に行い、これが「侵略」であった事実を事実として国家的に記憶に止め、二度と同じ間違いを繰り返さないために後世を教育していかなければならない。

 

4.「侵略」が誤魔化された要因 

しかし戦後の日本においてこの点が曖昧にされてしまったのは、侵略行為が中国や東南アジアなど海外で行われていて日本の国民に知らされていなかったこと、原爆や東京大空襲によって被害の記憶が強調されてしまったこと、そしてこの侵略行為の最高責任者である昭和天皇が政治的取引によって免責されてしまったことなどがその大きな理由であった。

この日本の侵略行為は、大日本帝国という名の天皇制絶対主義国家によって引き起こされた。「八紘一宇」という身勝手な理屈によって、天皇によって全世界が統治されるべきことが正当化されていた。日本軍は天皇の軍隊であり、天皇のみが統帥権を持つ天皇を頂点とする天皇のための組織であった。そして中国や東南アジアに対する侵略と統治は、すべてこの天皇の名によって正当化されてきたのである。

その最高責任者である天皇の責任が曖昧にされたままであれば、それ以下の責任者たちの「侵略責任」が問題にされなかったのも当然であろう。我が国において「侵略責任」が誤魔化されてきた大きな要因は、この天皇制の延命にある。

 

5. 「侵略責任」の在り方 

こ十分とは言えないかも知れないが、ドイツは現在でもナチスの犯罪者に対する刑事責任の追及を自ら行い続けている。ドイツ国内でナチスの犯罪を否定するような言説があれば、政府の責任者が毅然としてこれを正すという対応が繰り返されている。以前から繰り返し指摘しているとおり、こうしたドイツ自身による歴史修正主義に対する対処が、周辺諸国のドイツに対する信頼を担保している。

ところが日本では、日本人自身が日本の戦争犯罪の刑事責任を追及した例が、一つも存在していない。A級戦犯岸信介の孫である安倍晋三が、戦後日本で最長の長期政権を担当して、「慰安婦問題」を朝日新聞の責任に押し付けるなど、歴史修正主義を推し進める言動を繰り返している。これでは、中国や韓国が現在の日本のことを信用できず、強い不信感を抱き続けるのが当たり前であろう。反省もせず、事実も認めないで歪めているということは、また同じことを繰り返しかねないことを自ら明らかにしているのと同じだからである。

 

6. 「憲法9条廃止論」 

日本がこのように「侵略」責任を曖昧にしてきたもう一つの要因は、憲法第9条の存在だろう。いまや完全に空文化されてしまったこの9条は、「戦争放棄」という概念を掲げることで却って、悪いのが「戦争」であってそれを放棄したのだから日本は責任を果たした、という空疎な認識を可能にしてしまった。天皇制を存続させることと引き換えに日本国憲法に設けられたこの条項は、日本人が自ら「侵略責任」を追及することを困難にさせる役割を間違いなく果たした。

私は熟考した結果、このような憲法9条の戦争放棄条項は廃止して、日本は正式に軍隊を持つべきだと考えるに至った。ただし9条の廃止は、「侵略責任」の徹底的な追及と必ずセットで同時になされなければならない。憲法9条は、天皇制の存続と引き換えに設けられた。そうであれば9条の廃止は、天皇制の廃止と必ず同時に実施されなければならない。刑事責任と民事責任の追及、「侵略責任」の国家的な記憶の努力、歴史修正主義に対する毅然たる対応も、日本自身によって徹底的に行われる必要がある。ドイツがやっているのと同じである。他方で天皇制廃止を伴わない9条の改変には、絶対的に反対しなければならない。

 

7. 9条廃止後の日本の軍隊 

9条廃止により日本は、正式に軍隊を持つことになるだろう。その軍隊には、戦前に日本軍が行った残虐行為の数々と天皇制軍国主義の害悪を徹底的に教え込むべきである。戦前の日本軍との連続性は、完全無欠に断ち切る必要がある。そのことによって日本の軍隊は、本当の意味で人民のための組織になれるのではないかと期待している。

ドイツは軍隊を持っているが、そのことを理由としてナチスに対するドイツの反省が不十分だと指摘する声は聞いたことがない。「侵略」をきちんと反省しているかどうかと、軍隊を持っているかどうかに直接的な関係はないからである。

すでに日本は、極めて規模の大きい自衛隊という実力組織を所持している。そのことによって、ロシアによる今回のウクライナ侵略といった事態に対処しきれるかといえば、それは必ずしも容易ではない。しかしウクライナは自国の軍隊を持っていたがゆえに、軍事大国ロシアからの侵略にも今のところ必死に抵抗することができている。少なくとも、軍隊の存在が無駄だったと決めつけることはできないだろう。

ドイツはナチスの犯罪を反省して、その加害責任を記憶に止めるとともに、責任追及の努力をいまでも続けているが、NATOに所属して軍隊を保持している。日本もそのような国家を目指すべきではないかと、いまは考えるようになっている。

 

 

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