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コラム・弁護士

 
   

わたくしとラーメン(その2)

鈴木 周

2008年10月

弁護士 ・ 鈴木 周

わたくしの尊敬する東海林さだお先生の作品に「牛久ラーメン」という秀作がある。

以前、和歌山ラーメンだの尾道ラーメンだの、ご当地ラーメンがブームになった時期があったことを覚えておいでだろうか。この頃、ラーメン大好きの先生は、発作的に「わたくしもご当地ラーメンを作りたいのだ。ご当地ラーメンの陰の巨魁となりたいのだ。」と思いたった。が、「しかしそれを予算1万円でやりたいのだ。」と極めて高いハードルを自らに課され、子分1人と交通費を勘案しつつ予算組みをした結果、「牛久までが限界」という結論に達したのだった。それで、常磐線で牛久まで行き、情報収集しつつラーメン屋を4件回ったものの、「これじゃ東京ラーメンと変わんないな。ダメだな。」とガッカリして帰ってくるという話であった。東海林先生の作品を愛する者なら誠に堪えられない作品であるが、そうでない人には誠にどうでもいい話ではある。

もちろんわたくしは前者である。前者であるうえに、職業柄東京近辺であれば、西は小田原あたりから、北は熊谷、東は大網くらいまでは行動半径だ。そういうとこで仕事があったときには、一人駅前のロータリーに佇み、小手をかざしてラーメン屋を探し、醤油ラーメンを食べてくることにしている。名物になっている場合を除き、味噌ラーメンにしたり、大盛りにしたり、バターなどのトッピングをしたりはせず、醤油ラーメン普通盛り一本である。もちろん横の比較が出来なくなるからである。

そのようにして長いこと、牛久ラーメンはわたくしの心の中で静かに光を放っていたが、ついに今年の8月、機会が訪れた。ある事故の関係者宅がつくば市にあり、最寄駅が牛久だったのである。忘れもしない9月16日、わたくしは午後1時に関係者宅に行き、警察とともに現場の検証を行い、1時間で終わると思ったら2時間半もかかり、ハラペコもうオレ死にそう、の状態で牛久駅まで帰ってきた。

そうしたら、先生のように小手をかざすまでもなく、ロータリー横のビル1階に「風風(ふうふう)」を発見した。先生か作品中でそれなりの評価をしていた店だ。わたくしは、うれしさのあまり(心の中で)スキップしながらお店の前まで行き、(心の中で)ワルツを踊りながら店内に入り込んだ。小奇麗な店内はコの字型のカウンターだけで、一人も客はおらず、応対に出てきたのは、とても若いバイトのオネーチャンであった。「小奇麗、客なし、オヤジが作らない」というあたりで、既に不安三要素そろい踏みといった感がしたが、驚いたのは強気の値段設定680円であった。わたくしの事務所がある激戦区西新宿でもこれは立派な値段である。わたくしは、思わず、「一体ここの家賃いくらなんだ? 人件費だってバイトだろ?」と、さっきのスキップ&ワルツとは打って変わり、厳しい視線をオネーチャンに投げかけたのだった。まあいい、きっと旨いんだ、だから高いんだ、たまたま客がいないのは時間が悪いせいなんだ、と、わたくしは健気にも自分を説得し、鼓舞し、張りのある声で「醤油ラーメンを下さい」とオネーチャンに注文した。オネーチャンは、ハイッと小さいが明瞭な返事をし、厨房の奥へと消えていった。

と、そうしているうちに、男性客が一人入ってきて、手馴れた様子で窓際の新聞マンガスペースから、成人向け漫画誌を取り出し、カウンターのイスに腰掛けた。オネーチャンが奥から慌てて出てきて、注文を取った。が、その客は常連のクセにメニューを見ながらウジウジと悩み、わたくしは、「おい、オレのラーメンが伸びるだろうが。早く決めんか。」と気が気でなかった。常連客は、散々悩んで結局ミソラーメンを注文したが、なにしろわたくしはハラヘリで苛立っているので、「コーンバタ載せ大盛り麺固めモヤシはなしでね、とかいうんじゃないんだろうが。そんなもん3秒で頼めるだろうが。」とカウンターのこっちから、いわれのない攻撃的視線を送ったのだった。

注文を取り終え、オネーチャンが厨房の奥へと消えたと思ったら、チャッチャとお湯きりの音が聞こえ、ほどなくホカホカと湯気を立てながらわたくしのラーメンが到着した。わたくしは思わずドンブリを覗き込んだが、見た目はどうということはなかった。澄んでも濁ってもいない醤油色のスープに、バラ肉のチャーシュー1枚(2枚だったかナ?)、メンマとネギパラパラ、という構成だ。わたくしは、早速、中細でやや黄味がかった麺をツルツルッとすすり、レンゲでズズーッとスープを飲んだ。少し化調の味が強いかなーという気もするが、イヤミなほどではない。チャーシューも硬からず柔らか過ぎず、ごく普通のものだ。メンマもごくノーマル。全体的に、先生のおっしゃるとおり、東京ラーメンがそのまま北関東に引っ越したという印象で、特に牛久だからという点は一つもない。

肝心の味のほうは、不味かったんだろうと言われれば、キッパリと「不味くない」と言えるが、とてもおいしんでしょうかと問われれば、わたくしは目をそらすかも知れません、といった感じだ。5段階評価で言ったら、2.7といったところか。それじゃ5段階じゃないだろう、という向きもおられようが、2か3という範疇には収まらないんだからしょうがない。お店の人がハラを立てないように一応フォローしておくと、新宿のような激戦区ではなく、地方であることを考えると十分健闘していると言える。及第点であることは間違いない。オネーチャンの態度もキビキビと好ましく、単価が550円であれば、なんの文句もなかったと思う。

なとど考えつつ、ツルツルズズーっと食べていると、部活帰りなのか女子高生風が5人ドヤドヤと入ってきた。と思ったら、「ナニー、○○子、ここでバイトしてたんだねー。」などと、オネーチャンに声をかけていた。とても若いと思っていたが、女子高生だとは意外であった。それだけでやや得をした気もしないではないが、味の探求者のはしくれであるわたくしには関係のない話だ、と考えながら、財布のなかからピッと千円札を取りだし、カッコよく勘定を済ませて店を出た。

その夜、わたくしは京王線の中で、「なるほど、東海林先生のおっしゃられたとおりだ。風風をはじめとする牛久ラーメンは東京からあまりに近いゆえに、ご当地ラーメン足り得ないのだ。」と納得しつつ家に帰った。そして、就寝前、「先生は風風についてどのような評価をされておられただろうか。」と考え、膨大な蔵書のなかから目当ての1冊を引っ張りだした。そしたら、なんと、なんと、「キャー、風風(ふうふう)じゃなくて、鈴鈴(りんりん)じゃないのよー!」ということが判明したのだった。先生の足跡をたどるという意味で、今回の牛久ラーメンをめぐる旅は全て失敗したことが確認された瞬間だった。
次回はきちんと鈴鈴を探して入ろうと思う。

 

ちなみに、このコラムは、東海林先生作品のオマージュである。一昨年、スギーさんというイタリアの画家の作品をマネしてエライことになった人がいたが、わたくしも臆面なく先生の作品を模倣してしまった。しかし、これは愛ゆえの行動であり、利欲目的もないのでご容赦して頂けるのではないだろうか。先生も70歳近い、ここのところ、やや食欲に勢いがなくなってきたようで心配である。今後も勝手に先生の作風を引き継いで世に発信していきたいと思う。

 

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