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コラム・弁護士

 
   

「子育てする親の権利」を考える

後藤 富士子

2010年12月

弁護士 ・ 後藤 富士子

「親権」という語彙が、「親の子に対する支配権」のように感じるということで、子どもの権利を尊重する立場から批判がある。これを法的に表現すると、「親権は子に対する義務(責任)であって、親の権利ではない」という。しかし、それは間違っていると思う。むしろ、声を大にして「親の権利」と叫びたい。

たとえば、「配偶者による子の拉致」事件では、親権を共同で行使する父母の一方が他方の親権行使を不可能にする。私は、こういう事態は、拉致した親による他方の親に対する不法行為(親権侵害)としか思えないが、それが司法の世界では通じない。また、離婚は親権喪失事由ではないのに、離婚により父母のどちらか一方が親権を喪失するし、非親権者と子の交流(親子の絆の構築)についても「面接交渉は親の権利ではない」として、「子の福祉」の名の下に監護親の意向次第と処理される。このように、理不尽に「子育て」から排除される私の依頼者は皆、「愛情深い親」である。その嘆き苦しみを見ているのも辛いが、こんなことして一体なにかよいことがあるのか、不思議でならない。

具体的事例でも、「単独親権」だから、家裁の調査官調査も「どちらがいいか」「現状が問題ないか」という枠組の中で「事実の調査」をした挙句、「子の福祉に適う」という規範的評価を下す。両親が別居すれば、子どもは一方の親と同居し、他方の親とは別居する。同居親と子の関係が良好だからといって、別居親を「子育て」から排除する論理必然性はない。「子育て」から排除しなければならないような親は、親権喪失宣告をすればいい。そうすると、「単独か共同か」という以前に、「親権の権利性」が理論上の大問題であることに思い至る。

ドイツでは、1979年の親権法全面改正で「親権」は「親の配慮」という用語に変更されたが、1997年の改正で「両親は、未成年の子を配慮する義務を負い、かつ権利を有する。親の配慮は、子の身上のための配慮と子の財産のための配慮を含む」という現行法になった。つまり、両親による共同性―父母間に婚姻関係がなくても共同配慮であることになったが、それ以上に「我が意を得たり」と思うのは、親の配慮は「最高の人格的権利」であり放棄できないとされ、また、子に対しては義務性をもつが第三者に対しては絶対的効力を有するとされていることである。したがって、国家が親に成り代わって「子の福祉」を実現すべく、単独親権者・単独監護者を指定することなどできないし、反対に、単独配慮や養子縁組の同意など親の配慮を自ら手放すときに親同士の同意では足りず、裁判所の司法判断を要する。つまり、日本の親権制度と正反対になっている。

ところで、児童虐待防止の観点から、民法に「親権の一時停止」条項を加える案が法制審議会から出ている。しかし、これは全く噴飯物である。まず指摘したいのは、「親権喪失」に期限がないことで児童相談所が躊躇するというが、親権喪失事由が消滅したときは取り消すことができる(民法836条)。だから、「一時停止」でなく「喪失」でも充分運用できる。より重大なのは、児童相談所の「子育て」理念で、「虐待する親」を排除して保護施設収容によって公的機関が子どもを育てるという発想である。しかしながら、これで子どもは幸せになるのであろうか?成人になるまで施設で暮すというのでいいのだろうか。成人になった途端放り出されるのも問題である。一方、親権者の内縁関係者など、親権を有さない者による虐待には対応できない。こう考えてくると、虐待に対処するには、親権制度よりも、児童福祉法や刑事法を適用することの方が遥かに効果的であろう。

ここに現れているように、日本の法律家は、「法の精神」というものに凄く鈍感だと思う。子を虐待などせず、慈しみ育てる能力も意欲も充分な親を、離婚や未婚で排除する「単独親権制」をそのままにして、離婚・未婚により単独親権下にある子の虐待を防止するために民法の親権規定を改正しようというのだから。父母間の婚姻関係の有無に関わらず共同親権とすれば、子が虐待の被害を受ける機会も減るだろうし、虐待があれば、「親権喪失宣告」など制度本来の趣旨に則して対応できる。すなわち、「虐待の防止」は、虐待があった際の事後的権力的対策を強化すること以上に、「親子の自然の情愛」を基礎にした親権制度―共同親権制度を充実させることによって「子育てする親」の自覚を促すことの方が遥かに建設的である。「子どもは社会が育てる」というよりも、「子育てできる親を社会が育てる」べきであろう。

 

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