みどり共同法律事務所 みどり共同法律事務所 みどり共同法律事務所
みどり共同法律事務所
トップページ
みどり共同法律事務所とは
事務所内の様子
交通アクセス:地図
業務分野
弁護士・事務局紹介
弁護士・鈴木周
弁護士・穂積剛
弁護士・後藤富士子
弁護士・清水淳子
事務局
依頼方法・費用
コラム・弁護士
よくある質問
文字を大きくするには?
  みどり共同法律事務所
 
〒160-0023
東京都新宿区西新宿7-3-1
三光パークビル3F
TEL: 03-5925-2831
FAX: 03-5330-8886
E-Mail: info@midori-lo.com
   

コラム・弁護士

 
   

原発事故責任と戦後補償責任

穂積剛

2011年8月


弁護士 ・ 穂積 剛

震災が起きたあのとき、当日から私が気になっていたのが原発だった。すると案の定、震災直後に水素爆発が起きてしまい、原発がメルトダウンを起こしていたことも後日になって発覚した。そのため大量の放射性物質が日本列島に広範に撒き散らされ、その状態は今後数十年、数百年、場合によっては数万年にわたって続いていくことになる。

 これは非常事態であり、特に子供たちにとって被害は甚大だ。その被害も目に見える形では簡単には確認できず、何年後にもなって発ガンするという形で現れてくることになる。

 こういう事態になったとき、法律というものがいかに無力であるかを思い知らされる。

 例えば十年後に癌になったときに、それが今回の福島原発事故に起因することを立証するなど、法的にはほとんど不可能に近い。多数の統計資料が得られれば、疫学的に証明する手段があり得ないではないが、個人の力で行うにはあまりに限界がある。時間がたてばたつほど、放射性物質によって引き起こされた損害は被害者が泣き寝入りするしかなくなっていく。

 これまでにも原発差止請求訴訟はいくつも行われてきたが、実際に差止を命じた例はない。これについては、そうした判断を容認してきた裁判官の責任こそ問われるべきだろう。実は知り合いの弁護士がすでにそうした運動を始めているとのことで、裁判官の実名を出したうえで今回の事態について見解を求めるそうだ。そうしたことはもっとやってもらいたい。

 現在の世論では、圧倒的多数が原発について消極的な見解を示している。これだけ莫大な被害をもたらしたのだから当然のことだ。原発は二酸化炭素を出さないというが、それ以上に危険な放射性物質を大量に産み出すのだから、選択肢としてそもそも誤っている。

 しかしそれでも、この国で将来本当に原発から脱却できるかどうかについては、残念ながら私はあまり希望的観測を持っていない。

 日本において一貫して原子力推進政策を続けてきたのは他ならぬ自民党だが、いま選挙を行えば誕生するのはまた自民党政権だろう。私にいわせれば、原発によって子供たちの生命と将来を含めてこれだけ巨大な被害を与えた真性加害者の一つが自民党であり、そのことだけで自民党を選択することなど金輪際あり得ないはずだと思うのだが、世論調査の結果は何故かそうは示していない。

 どうしてそうなってしまうのか。その要因の一つに、きちんと事実を明らかにしたうえで社会的責任を負わせるということに対する、社会の認識不足があるのではないだろうか。

 それはまさに、私がライフワークとして戦後補償裁判をやっていることと共通する問題があると思っている。

 日中戦争と太平洋戦争により、日本では国内にあれだけ甚大な被害者を産み出し、さらに国外にはそれを遙かに上回る恐るべき莫大な数の被害者を産み出しながらも、日本人は自分自身の手では誰一人としてその責任を問うことをしなかった。東京裁判の不当性を訴えることには熱心でも、自分たちでその責任追及を果たすことは全くしてこなかった。

 中国を筆頭として現実に諸外国に与えた巨大な損害に対しても、相手国が請求権放棄をしてくれたことに甘えるだけで、誠意のある対応をしたことなどほとんどない。それどころか逆に、南京大虐殺が虚構だっただの従軍慰安婦は存在しないだの、あまりにレベルの低い妄言を何度も繰り返すことで諸外国の怒りを買ってきた。侵略戦争を肯定するための精神的支柱だった靖国神社という存在を現在も正当化し、これまた閣僚が参拝したりすることでさらに日本の国際的評価を下落させてきた。

 これほどまでに国益を害する狂った事態を何とか少しでも改善したいと思う強い愛国心から、私は戦後補償裁判に関与することで事実を明らかにして責任の所在を明確化させ、そのことで被害者の方々に報いたいと考えてきた。それが、これまで15年にわたって私が戦後補償裁判をやってきた動機である。

 今回の原発事故において、果たして本当に責任が問われて事態が少しでも改善するだろうか。それとも時間が経つにつれて忘れ去られ、やがてこれまでと同様に自民党政権が復権し、財界主導のもとで国民の目を誤魔化す原子力推進政策に戻っていくだろうか。

 日本の敗戦直後の日本国民は、さすがに戦争には反対であるという立場が圧倒的だった。しかし実際には自らの手で責任の所在を明らかにすることはせず、連合軍から与えられただけの「平和憲法」に依拠することで、何とか戦争を回避してきたに過ぎない。これではいつまた別の形で、同じ過ちを繰り返さないとも限らない。

 よく比較される話だが、これに対してドイツは自らの国民の手で戦争犯罪の処罰を行い、今日までその手を緩めないことで国際社会の信頼を勝ち得てきた。ドイツは今回の福島原発事故を受けて、国家として原発から脱却していく道をいち早く選択した。この二つの選択が、関係していないとは私にはとても思えない。

 原爆被害に遭い、原発被害にまで遭ってしまったこの国が、今後何を選択していくべきかは明らかではないだろうか。

 

一つ前のコラム・弁護士へ コラム・弁護士トップページへ 一つ次のコラム・弁護士へ
 
Designedbykobou-shibaken.com
プライバシーポリシー