秋だ。
食欲の秋、読書の秋などと言うけれど、みなさん存分に満喫されているだろうか?
個人的には年中食欲全開、読書はほどほどなので、しみじみ秋を実感することはほとんどない。悔しいのでピクニックでも行こうかなー。
ところで世間ではどうだろう?みんなグルメ三昧読書三昧なのだろうか?
総務省統計局が公表している全国家計調査報告を見たところ、秋の「食費」「教養娯楽費」は驚くなかれ、めちゃくちゃ平均的だった(いずれも一番多いのは12月)。でも考えてみれば、もっともだ。秋の味覚を楽しむのに特に出費がかさむわけではない。サンマなんて1尾100円だ。マツタケを毎日食べるような人は、きっと夏にはウナギを毎日食べているはずだ。「○○の秋」は財布の出入りとは関係がないようだ。
さて、秋とは全然関係ないが、弁護士はどんな本を読んでいるのか、今日は弁護士会の図書館の昨年度貸出しベスト3をご紹介しよう。と言っても、図書館が公開しているのは「よく貸し出された20冊」を順不同に並べただけなので、上から3冊を拾ってみた。だからベスト3じゃなくてファースト3か。まあ細かいことにはこだわらないでほしい。
まず1冊目 「遺言執行の法律と実務 新版」
モノモノしいタイトルだ。
言うまでもないが、自分が死んだあと自分の財産をどう分けてほしいか書き残すものが遺言だ。「自宅土地建物は妻に」「預貯金は長男に」「株は次男に」「銀のエンゼル4枚は孫に」など決めておく。この相続がスムーズにできるように遺言で指定しておくのが「遺言執行者」というわけだ。遺言執行者は、「遺言に書いてあることを実現する」のが仕事で、余計なことを考えずに淡々と進めなければならない。「そんなこと言ったら長女がかわいそうやろ」と勝手に長女に次男の株を分けてあげるなどしてはいけないのだ。(自分のコレクションから銀のエンゼル1枚を孫にあげるのは遺言執行と別の行為なので許されるかと思う。)この遺言執行者に、弁護士が指定されるケースが多々あるわけだ。
たいてい遺言を作るときに「じゃあ、万一のときには先生頼みます。」「ガッテン承知の助でぃ。」と約束をし、ほとんど忘れたころに出番がやってくる。
ところが弁護士は、離婚とか、医療過誤とか、企業法務などを「専門」にしたりしているが、「遺言執行」を専門にしている弁護士は(たぶん)いない。もしいたとしたら、もともと焼きとり屋だったのにガラでスープを取ったカレーが大評判になり「焼きとり」で検索してもヒットしなくなったカレーショップ「とり吉」みたいなもので、「やー、遺言執行にかけて先生の右に出る人はいませんよ。すばらしいっ!」などと称賛していいものかどうかは非常に悩ましい。私を含め大半の弁護士が、損害賠償請求とか、債務整理とか、明渡し請求とか、いろんな事件を日常扱っているところ、遺言執行者の出番が来たら、おもむろに遺言執行の手続きをすることになるわけだ。
つまり、弁護士が「いつもやってる」業務ではないところ、突然やってくる仕事で、しかも間違っても間違ったりできないため、いそいそと手に取られるのがこの「遺言執行の法律と実務」ということだ。
さて2冊目は 「慰謝料算定の実務」
法律相談でよく尋ねられるのが「慰謝料はいくらくらい取れますか?」という質問だ。
ツボを壊された、だからツボの代金を弁償しろ、なら「いくら」というのははっきりしている。しかし、「自信満々で出されたカキにあたってお腹が痛かった」「フラれてつらかった」「食堂のメニューからカレーうどんが消えて悲しかった」などの場合、それが「いくら」かははっきりしない。いずれも思い出すだけで胸が痛む。うっうっ(涙)それはともかく、目玉に矢が刺さっても戦った武将もいれば(三国志に出てくる夏候惇)、お腹が痛くて辞めてしまう首相もいるし(誰とは言わない)、痛い、つらい、悲しいには個人差がある。でもまさか「キミの場合ダメージないでしょ」とも言えないので、ダメージがあってもなくても「目玉に矢が刺さったら○○円」という目安があってしかるべきなのだ。
ということで、私のバアイ尋ねられたときや尋ねられそうなときには、判例などを一生懸命検索し、1件1件金額だけでなく事件ごとの事情などもメモに取りながら調べたりしている。事案によってえらく差があって、「基準ないんじゃないの?」とスネたくなる場合もある。
こんな苦労するのは私だけかと思っていたが、こうした本がよく読まれているところを見ると、私以外の弁護士も尋ねられては、「うぅーん、いくらだろう?」と考えて調べるようだ。ちょっと安心した。
ちなみにこの本は名誉棄損、医療事故など事件のタイプ別にまとめられているらしい。今度見てみよう。でも10年前の本なので、モノによっては水準が変わってきてるかも?
そして、3冊目は 「財産管理人選任等事件の実務上の諸問題」
え…………(汗)
ここまでの2冊、地味というかマニアックというか、少なくとも地元の公立図書館ではまず読まれない(というかそもそも置いてない)本ばかりが上がってきたが、極めつけ、タイトル18文字中16文字が漢字でマニアックの殿堂入り間違いなしといった押し出しの強さだ。
ちなみにこの「財産管理人」というのは、亡くなった方に相続人がいない場合や、いても全員相続放棄してしまって遺産を管理・処分する人がいない場合に、裁判所が選任する「整理屋さん」みたいなものだ。相続人がいないと誰もその人の財産に手をつけられないので、債権者はお金を返してもらえず、賃貸人は部屋を片付けて明け渡せというべき相手がおらず、銀行はいつまでも預金口座を管理しなければならないなど、関係者がみんな困ってしまう。なので、財産管理人が、財産を処分してお金に変え、借金があればこれを返し、足りなかったら「ごめーん」と謝って債権者に泣いてもらい、何がしか残れば国庫に納めて、その人の経済活動に「けり」をつけるのだ。会社の破産に似ており「けり」。
ところでこの本、「管理人の実務」でなくて「管理人選任等事件の実務上の諸問題」という長いタイトルになっているので、財産管理人の虎の巻というより、「あれ、もしかしてこの人相続人いない?」という裁判所に選任を申し立てる前の段階からの「諸問題」から説明されていると思われる。
必要のないときには「誰が読むの?」という感じだが、こういう必要は突然やってきて、しかもかなり切実だったりするので、いざ必要になったときにこの本は地獄に仏ほど後光が差して見えるはず。
以上弁護士に人気の本3冊だ。「なるほど面白そうだ」と思ってもらえただろうか?
「みんなが読んでるなら自分も読んでみよう♪」という気になったアナタ、相当変わりものです。 |