みどり共同法律事務所 みどり共同法律事務所 みどり共同法律事務所
みどり共同法律事務所
トップページ
みどり共同法律事務所とは
事務所内の様子
交通アクセス:地図
業務分野
弁護士・事務局紹介
弁護士・鈴木周
弁護士・穂積剛
弁護士・後藤富士子
弁護士・清水淳子
事務局
依頼方法・費用
コラム・弁護士
よくある質問
文字を大きくするには?
  みどり共同法律事務所
 
〒160-0023
東京都新宿区西新宿7-3-1
三光パークビル3F
TEL: 03-5925-2831
FAX: 03-5330-8886
E-Mail: info@midori-lo.com
   

コラム・弁護士

 
   

だから言わんこっちゃない

穂積剛

2013年1月


弁護士 ・ 穂積 剛

2012年12月の総選挙の結果、予想どおりではあったが自民党が大勝し、衆議院で300議席に迫る圧倒的多数を獲得した(全480議席)。これによって、自民党の安倍晋三総裁が内閣総理大臣に就任した。

もっともその内閣の陣容は、まさしく「極右内閣」とでも言うべきものとなっている。「保守」などという生やさしいものではない。「反動極右」という以外に、私には適切な言葉を思いつくことができない。

安倍首相は就任直後から、早速いわゆる「従軍慰安婦」問題に関する1993年の「河野談話」(「慰安婦」とされた女性らに対し、日本政府として「お詫びと反省の気持ち」を表明したもの)を見直すと言い出した。また閣僚には、下村博文文部科学相を始め、「南京大虐殺は存在しなかった」と主張する閣僚が多数含まれている。

その中でも突出しているのが、行政改革相に就任した稲田朋美議員であろう。この人物は、まさしく札付きである。稲田議員は弁護士出身であるが、私はこの稲田弁護士を相手にして、「南京大虐殺」に関する民事訴訟を3件担当し、そのすべて(地裁、高裁、最高裁)で完全勝訴を収めたことがある。

もちろん、私が優秀だったからではない。事件はいずれも弁護団を構成して担当していたし、それ以前の問題として、あまりにレベルの低い「南京大虐殺否定論」の代理人を、この稲田弁護士が担当していたからである。

一度目は、南京大虐殺の際に日本兵による強姦に抵抗したため、全身を30箇所以上銃剣で刺されて死線をさまよった幸存者である李秀英さんを、「南京大虐殺否定論者」がニセモノ被害者と指弾した「李秀英名誉毀損裁判」である。この事件で私は、李秀英さんの代理人の一人として訴訟活動を行ったが、地裁・高裁・最高裁はすべて李秀英さんに対する名誉毀損の事実を認定した。この事件において、私たち弁護団は初めて稲田弁護士を相手にすることになった。

二度目は、南京への進軍中に野田と向井という二人の少尉が、中国人に対する殺人競争を行った事実を指摘した元朝日新聞の本多勝一記者に対し、これが事実無根だとして二人の少尉の遺族が名誉毀損訴訟を提起した「南京百人斬り訴訟」である。訴えられたのは本多記者のほかに朝日新聞、毎日新聞などで、このとき私は本多記者の代理人として訴訟活動を行った。

この事件で裁判所は、両少尉の遺族の請求をすべて棄却しただけでなく、東京高裁は「両少尉が、南京攻略戦において軍務に服する過程で、当時としては、『百人斬り競争』として新聞報道されることに違和感を持たない競争をした事実自体を否定することはできず」と認定し、中国人に対する殺人競争を二人の少尉が行っていた事実を認定するに至った。

これも完全勝訴であり、最高裁に至るまでこの認定が揺らぐことはなかった。

三度目は、同じく南京大虐殺のときに両親や祖父母など家族を日本兵によって虐殺され、妹と二人だけ生き残った幸存者、夏淑琴さんに対する名誉毀損訴訟である。これは、亜細亜大学の東中野修道教授が夏淑琴さんをニセ証言者であるかのような記述をしたことが争われた事件だった。

このときも東中野教授の論述内容があまりに低レベルだったため、東京地裁の判決では「被告東中野の原資料の解釈はおよそ妥当なものとは言い難く、学問研究の成果というに値しないと言って過言ではない」とまで断罪されたほどであった。

この事件においても、地裁・高裁・最高裁はすべて夏淑琴さんに対する名誉毀損を認定した。つまり合計で、南京大虐殺に関する訴訟で私たち弁護団は稲田弁護士らに9連勝したことになる。

これらの事件の経験で私が確信したことは、何よりもまず巷に流布されている「南京大虐殺否定論」というものが、いかにデタラメきわまりないいい加減で酷いものかということであった。客観的事実を無視し、厳然と存在している史料を無視し、あるいはあえて歪めて解釈し、都合の悪いものにはすべて目をつぶって「南京大虐殺はなかった」と繰り返しているだけのメチャクチャな主張でしかなかった。あんなデタラメな言説がまかり通るなら、広島長崎の原爆投下も東京大空襲も、全部なかったことにできてしまうだろう。

「従軍慰安婦」問題も同様で、私は中国人「慰安婦」訴訟弁護団でも活動してきたが、担当した元「慰安婦」のおばあちゃんたちは、全員「日本軍によって強制的に拉致され、意に反して性的奴隷労働を強いられてきた」間違いようのない強制拉致の被害者だった。日本の裁判所もその事実を認定しているにも関わらず、軍が強制した事実はないなどといういい加減な主張を繰り返す連中が首相を始め内閣に多数存在しているのである。日本人として、これほど恥ずかしい事態は考えられない。

そうした訴訟を行う中で私は、「この人達は、実際には事実がどうであったのかは関係なく、南京大虐殺や『従軍慰安婦』の事実を否定することができるのなら、手段はどうでもいいと思っている」ということが身にしみてわかった。デタラメだろうとレベルが低かろうと、日本軍の侵略行為の事実を否定できるなら、どんな手段でも構わないとこの人たちは考えているとしか思えない。そのような人物が、当選2回にして「大臣」に抜擢されてしまうというのが、現在の安倍晋三内閣なのである。

以前から私は、平頂山事件を含む戦後補償裁判に関わってきた。所属していたのは中国人戦争被害賠償請求事件弁護団だが、特に中国に思い入れがあったわけではなく、日本の戦争犯罪問題全体をできる限り早期に解決したいと思ってやってきた。

弁護団活動を始めた当初から持っていたのは、「早くしなければ間に合わなくなってしまう」という思いだった。これは一つには、「慰安婦」とされた女性たちや平頂山事件の幸存者など、日本が謝罪すべき人たちが次々と亡くなっていってしまうことがある。そしてもう一つあったのが、「近い将来、中国や韓国が国際社会において力を付けていくにしたがって、日本は謝罪を実行すべきタイミングを失い、アジアや国際社会においてますます孤立を深めていく」という思いだった。そのときの危惧が、今まさに現実のものになろうとしている。

中国は今や、日本を抜いてアメリカに次ぐGDPを持つ世界第二の経済大国である。韓国は、サムスン電子などのIT・電機メーカーが世界的にも大きく発展し、「江南スタイル」で全世界を風靡したPSYなど「K−POP」勢の躍進もめざましいものがある。このように両国が経済的にも国際的にも非常に強力になってくると、両国は日本に対し臆することなく発言してくるようになる。そうなれば、いずれ必ず「歴史認識問題」が障害になってくる。私はそのように思っていた。

排外色の強い内向きの日本人は中国韓国からの批判に対して感情的に反応し、そのことでますます国内の右傾化が進行して、アジア諸国と国際社会においてさらに日本が孤立を深めていくことになる恐れがある。そうなる前に、何としても戦後補償問題を解決しておきたかった。だから言わんこっちゃないというのだ。

今やこの国では、戦後最悪の極右内閣が発足するに至った。安倍首相率いる自民党が危険なだけでなく、それと同レベルかそれ以上の極右反動思想を公然と掲げる「日本維新の会」も50を超える議席を獲得している。彼らは憲法「改正」を容易にするため、まずは改正条項を定める憲法96条(両議院の3分の2以上の賛成で発議できる)の改訂を狙っている。そのためには、今夏の参院選でも大量議席を獲得しなければならない。

私は天皇制廃止論者であり、そのためには憲法9条を改廃しても構わないと思っている(むしろ9条があることで、日本が犯した侵略の犯罪性を日本人に考えなくさせてきた弊害すらある)ので、改憲論者であっていわゆる護憲派ではないし、「平和憲法擁護論者」ではない。しかし安倍首相らが狙っている憲法「改正」は、私が主張している憲法改正とは正反対の方向であって、こんなものを絶対に認めることはできない。

安倍首相と自民党が行おうとしている極右路線を許していれば、日本はますますアジアと国際社会で孤立するようになり、そのことは日本自身の首を絞める結果になっていくことだろう。それは間違いなくこの国の破滅の道である。

まずは、夏の参議院選挙で絶対に極右勢力を伸長させてはならない。安倍内閣はそれまでは極右路線を押さえて経済政策を優先させるだろうが、騙されてはならない。参院選で彼らに議席を獲得させてしまったら、取り返しの付かない事態が招来してしまう。

そして、日本が中国や韓国を始めとするアジア諸国に何をしたのか、その正しい歴史的事実を今からでもきちんと知るべきである。デタラメな言説を繰り返す学者や議員や弁護士の言うことに、疑ってかからなければならない。

私が取り組んでいる平頂山事件は現在も解決のため努力を続けているが、このたび「撫順から未来を語る実行委員会」として、『平頂山事件資料館』というサイトを開設した。平頂山事件に関する被害証言など各種資料を広範に掲載した初めての資料集サイトである。

ほぼ同時期に、駿河台大学の井上久士教授と弁護団の川上詩朗弁護士が編纂した『平頂山事件資料集』(柏書房)も出版されることとなった。こちらは、中国側の資料も含めて事件の史料を網羅した本格的資料集で、気の遠くなるような編集作業を経て出版された大変な労作である。

地道な作業ではあるが、この国を少しでもまともな方向に軌道修正することができるよう、こうした材料を活用してもらえればと心から祈念している。

【参考サイト】

『平頂山事件資料館』 サイト

『平頂山事件資料集』 柏書房のサイト

 

一つ前のコラム・弁護士へ コラム・弁護士トップページへ 一つ次のコラム・弁護士へ
 
Designedbykobou-shibaken.com
プライバシーポリシー