先日、富士山麓のゴルフ場に向かう車中で、蔦屋で借りてきた「青春楽譜78年プラス」というCDを聞いていたところ、ズンドコズンドコと聞き覚えのあるイントロが流れてきた。思わず、「こ、これは、もしや、カメーレオーン、アーミーっ! ズンチャカズンチャ、ズンチャカズンチャ…。」と、心と体が勝手に反応し、極めてゴキゲン(死語)なドライブとなった。
そう、「カメレオンアーミー」、ピンクレディが最後にヒットチャートで1位を取った曲だ。長きにわたって栄華を極めた二人だったが、既に少しずつ人心は離れつつあったのだろう、ここから凋落が始まることとなった。これについては、故ナンシー関女史が著作の中で、「彼女らは、人間界に戻ってきてしまったところが間違いであった。」といった分析をされておられたが、誠に正鵠を射た鋭い指摘である。
ピンクレディは、もともとイモっぽかった静岡のオネーチャン2人組を、阿久悠・都倉俊一コンビが無理やり健康お色気に仕立て、当時では想像もつかなかった非日常の世界に視聴者を無理やり引きずり込んだものと言えよう。同じアイドルでもキャンディーズは「隣のお譲さん」的な売りであり、また同じ健康お色気でも由美かおるさんのような過剰性もなく、うまく独自色の確立が出来た好例であると言える。
そして、その非日常性は、シングルを出すたびに度合いを増して行き、デビュー2年目の暮れ、ついに名作「UFO」となって結実した。非日常どころか、そもそも人間界から逸脱してしまったのである。この非人間路線に気を良くした阿久・都倉コンビは絶好調モードに突入し、「サウスポー」を挟んで、「モンスター」「透明人間」と続き、非人間三部作がついに完成したのである。そもそも宇宙人だの透明人間だのが引用される場合には、普通なら「宇宙人のように気持ちが分からないあなた」みたいな、擬人化で使うものでしょう? まさかホントに宇宙人が出てきて、しかも惚れたりしないでしょう? しかし、当時は、この斬新な切り口に国民全体が完全に乗せられ、熱狂し、レコードはミリオンを連発したのである。
このようにして約1年続いた非人間路線に、どういうわけか見切りをつけて、彼女らが人間界に帰ってきたのが冒頭の「カメレオンアーミー」である。天皇人間宣言ではないが、「なんだ人間だったのか。ツマンネーの。」ってことで、これを最後に徐々に引き潮になっていった。ナンシー関女史が言っておられたのはこのことである。歌が子供に分かりにくくなったのも要因ではないかと思われる。
ピンクレディが世に発信し続けた非日常性、被人間性は、三部作に限らず、デビュー曲の「ペッパー警部」以降、彼女らの歌の中の随所に潜んでいて、今読みかえしてみると、「ホントに、誰も何も感じなかったのだろうか。まともな曲として聞いていたのだろうか。」と不思議な気持ちになってくる。以下、デビュー作「ペッパー警部」と、三部作に挟まった「サウスポー」の歌詞から分析してみたい。
1 ペッパー警部
てか、冷静に考えるとタイトルからして理解不能である。部下は「タバスコ刑事」なんだろうか。「七味婦警」なんてのも和風でいいかも。それにしても、歌詞の中で、ペッパーに類似もしくは想起させるものは何一つ出て来ない。デビュー当時から非日常の萌芽がチラチラ垣間見えると言ってよかろう。
- 〜ペッパー警部 邪魔をしないで。
ペッパー警部 私たちこれからいいところ。〜
- このようにアベック(これも死語か)が黄昏時に寄り添う場面から歌は始まる。
- 〜中略 そのときなの もしもし君たち帰りなさいと
二人を引き裂く声がしたのよ、アアアア。
ペッパー警部 邪魔をしないで
ペッパー警部 私たちこれからいいところ。〜 - 一番はこれで終り。要するにペッパー警部はおジャマ虫だったわけだ。あっちいけシッシッ。ところが、二番になったとたん、ペッパー警部大暴走!
- 〜愛しているよと 連発銃が〜
- ちょっと、ペッパーさん、あなた変ですよ! 「もしもし君たち帰りなさい」と言いながら、突如「愛してるよ」と連発銃ぶっ放す豹変ぶりには開いた口が塞がりません。
- 〜私を殺してしまいそう ああ 負けそうよ。〜
- あなたもあなたですよ! なんで惚れてしまうんですか? 今、好きな彼氏とイチャイチャしてたとこなんでしょう。それとも、人間、理解の域をはるかに越えるものに遭遇した時には、無条件で魅かれてしまうものなのだろうか…。
このあとはサビに流れていくのだが、今読みかえしてみても、どうにも不可解な歌である。当時は特に疑問も感じていなかったが、既に「ピンクレディじゃしょうがない」という、理解ないし諦めの心境が列島を覆っていたのかも知れない。
2 サウスポー
これは王さんが756号の世界記録を作るか作らないかという時のタイアップ曲である。阿久・都倉コンビが、「王さん行けそうだゼ。非人間三部作は一時休憩で、野球もの作ってやれ。」ってことなのだろう。が、人間界の歌とはいえ、これも十分に持ち味を発揮している傑作である。
- 〜 背番号1のすごい奴が相手 フラミンゴみたいヒョイと一本足で
スーパースターのお出ましに ベンチのサインは敬遠だけど 逃げは嫌だわ。〜
- なるほど。おそらく場面は後楽園球場、巨人とビクター戦で、スコアは2対1でビクター1点のリード、9回裏に抑えのエースでお姉さん投入するも、四球とヒットで二死二塁三塁。敬遠すると次は末次。そりゃベンチは敬遠指示だよな。
- 〜 男ならここで 逃げの一手だけど 女にはそんなことはできはしない。〜
- なぜ? どうして? そこにどういう男女別があるのだろうか。
- 〜 弱気なサインに首を振り 得意の魔球を投げ込むだけよ そうよ勝負よ。〜
- いいのかベンチに逆らって。知らんぞ。
- 〜 しんと静まった スタジアム 世紀の一瞬よ
熱い勝負は 恋の気分よ 胸の鼓動はドキドキ 目先はクラクラ
負けそう 負けそう。〜 - なるほど、恋の気分か…、王さん相手に…。ま、このくらいは許そう。
- 〜 私ピンクのサウスポー 私ピンクのサウスポー。〜
- ここがサビ。だけどその「ピンクのサウスポー」って具体的に何? お色気サウスポーってこと?
- 〜 きりきり舞いよ きりきり舞いよ 魔球は 魔球は ハリケーン。〜
- ハリケーンとは、どんな球なんだろう。野茂のトルネードみたいものだろうか。それともバッターがきりきり舞いするからハリケーンか。ミスターでも1回転以上してるの見たことないが…。
これで一番は終わり。二番は世界の王さんのメッセージから始まる。
- 〜 背番号1のすごい奴が笑う お譲ちゃん投げてみろと奴が笑う。〜
- さすがに世界の王 お姉さん相手くらいでは余裕ですね。しかし、この直後、衝撃の真実が発覚!
- 〜 しばらく お色気 さようなら。〜
- ワハハハ! やっぱりお色気で勝負してたのか! 投げるとき太腿チラっとかやって、クラクラっとさせて、「オーライ、ゲッツー、楽勝!」とかやってたんだな。柴田あたりが「ずりーよ、あれー」とか言ってそうだ。
で、この勝負は結局分からず、ハリケーンを投げ込むところで終わっている。時間切れか、オイオイ、最後まで見せてくれよ、ビール残ってるんだよ。でも当時は地上波8時50分で終りだったからしょうがないな。想像するに「ハリケーンが高めに外れ、2ボールになったところで諦めて塁を埋め、続く末次をお色気で三振。ゲームセット。これで巨人とビクターのゲーム差は0.5に縮まった。」てな感じだろうか。
うむ、歌詞を分析してみると、誠に興味深く、時間がたつのを忘れてしまった。
どう考えてもおかしいだろ、ヘンだろ、というところ満載なのだが、そうと感じさせずグイグイと引き込んで行く様は、さすが阿久・都倉コンビ、時代を読みきった手練れの仕事と言えよう。
いわば、「歌による前衛」と言えるかも知れないな。って、さすがに褒めすぎかしら。 |