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コラム・弁護士

 
   

あなたの家族が隣人に殺されたなら

穂積剛

2013年10月

弁護士 ・ 穂積 剛

あなたの家族が隣人に殺されたとしよう。あるいはあなたの祖母が隣人から強姦被害を受けたとしよう。ただし、どちらも単なる殺人事件や強姦事件ではない。それは次のような想像を絶するものだった。

  1. 《母方の家族に起きた殺人事件》
    母方の祖父は当時、妻である祖母、祖母の二人の両親(曾祖父と曾祖母)、それに5人の娘と住んでいた。5人の娘は上から15歳、13歳、7歳、4歳と生後数ヶ月で、あなたの母は真ん中の7歳の三女である。
     ある日突然、銃を持った隣人が自宅に押し入ってきた。最初に隣人を見た祖父は、逃げようと振り返ったところで背後から銃撃され殺された。隣人は自宅に入ってくると、末妹と一緒にいた祖母を強姦して、陰部に瓶を突っ込んだ状態で殺害した。
    4人の娘たちは曾祖父母と一緒に別の部屋に逃げていたが、隣人が入室してくると孫たちを守ろうとした曾祖父母をともに銃で撃ち殺した。曾祖母の頭から白っぽい脳が飛び出すのをあなたの母はその目で見ていた。
    母と4歳の妹はその惨劇を見て泣き叫んでいたが、母は隣人に左肩・左脇と背中の3カ所を刺され、そのまま気を失ってしまった。
    しばらく経って母は、妹の泣き声で気が付いた。部屋には曾祖父母の死体が転がっており、上の姉が下半身を裸にされ、陰部に棍棒が突っ込まれて死んでいた。下の姉も同様に下半身裸のまま殺されていた。祖母が抱えていた生後数ヶ月の末妹は、その場で殺されていた。
    あなたの母は、恐怖のため外に出ることもできず、その後約2週間のあいだ、4歳の妹と自宅で潜伏して過ごした。ようやく近所の人に発見されたあとも、母は幼い妹と二人で、天涯孤独で生きていかなければならなかった。
  2. 《父方の祖母の受けた強姦事件》
    父方の祖母は、まだ15歳の生娘だったころ、武装した隣人によって無理やり自宅から誘拐された。隣人は祖母の母親を殴り倒すと、祖母の口に布きれを突っ込んで祖母を連れ出し、隣人のところに拉致していってしまった。
    こうして祖母は隣人のもとで強姦された。経験もないことで激しい痛みを覚え、恐怖で動くこともできない状態だった。
    これ以降、祖母は文字通り隣人から連日連夜強姦され続けた。生理のためか傷を負ったためかわからなかったが、陰部から出血が続いた。粗末な食事しか与えられないため、祖母の身体はどんどん弱っていった。祖母は死にたいと強く願ったが、隣人に監視されているため死ぬ手立てすらなかった。
    こんな生活が5ヶ月も続いたあと、これ以上は耐えられないと思って祖母は強姦しようとした隣人に強く抵抗した。すると隣人は激怒し、自分の革ベルトで祖母の顔を殴り付けた。ベルトのバックルが右目に当たり、祖母は右目が見えなくなった。怒った隣人はさらに祖母の左大腿を蹴り飛ばし、棍棒で祖母の頭を殴り付けたため頭部から血が噴き出して、ついに祖母は気を失った。
    祖母の両親は、何とか祖母を助け出そうと、親戚中から借金をして金を集め、娘を帰してくれと隣人に直談判した。しかし隣人がこれを拒否したため、絶望した祖母の母親は庭の木に首を吊って自殺してしまった。
    瀕死の重傷を負った祖母はようやく自宅に戻されたが、半年あまり寝たきりの状態が続いた。バックルが当たった右目は失明し、蹴り飛ばされた左足は成長が止まって右足より5センチほども短くなってしまい、そのため足は不自由なままとなった。棍棒で殴られた頭の傷は、穴のように陥没したままの状態となった。
    さらに祖母にはPTSDの症状が残り、悪夢を見たりフラッシュバックが起きたり精神的に不安定になるなどをその後も数十年繰り返した。
    このようにひどい被害を受けた祖母の息子が、あなたの父親となった。
  3. 隣人の「反省」
    こうして、あなたの母親は妹を除く家族7人を殺され、自分も刺突される被害を受けた。あなたの父方の祖母は悲惨な強姦の被害を受け、その傷は後遺症として心身ともに深く残ってしまった。
    これほどの異常な犯罪を犯したその「隣人」は、日本の法律では当然に死刑となったであろう。その後「隣人」は捕まって裁判にかけられ、自分の犯した犯罪について反省して二度と繰り返さないと約束した。生き残ったあなたの母親も、後遺症の残った父方の祖母もこの「隣人」を許せないと思ったが、しかし「隣人」が本当に反省しているのであればと「隣人」に刑事罰を求めないことにした。
  4. 孫の世代の「隣人」の主張
    その後数十年が経過した。「隣人」も代替わりして、現在はその孫の世代が新たな「隣人」となっている。
    ところがその孫があなたの母方の被害について言う。「自分の祖父は7人の家族を殺す犯罪など犯していない」、「そんな虐殺事件は存在しない」、「そのような虐殺事件は被害者によるでっち上げだ」、「そんなもの事実無根の冤罪だ」と。
    その孫があなたの父方の被害についても言う。「自分の祖父は強姦などしていない」、「祖父が強姦をしたという『強制性』を示す証拠は存在しない」、「被害者と主張している人物は単なる売春婦に過ぎない」、「被害者のような売春婦は多額の報酬を得ていたはずだ」、「そんなのは祖父の名誉を毀損するデタラメだ」と。
    仮にそのような好き勝手なことを言われて、あなたはその孫の世代の「隣人」を許せるだろうか。そんな「隣人」と近所付き合いができるだろうか。そんな「隣人」とこれからの関係を築いていけるだろうか。
    私なら無理である。私にはこんな「隣人」を許容することなどできない。おそらくあまりの激怒のため、完全な絶交状態に陥るだろう。この「隣人」には、人間として最低限のモラルが根本から欠如しているとしか考えられない。同じ人間としてこれほどの「最低」「最悪」かつ「唾棄すべき」存在は、他に想定しようがない。
  5. 夏淑琴さんと李秀梅さん
    しかしこれは、現実にこの日本において今まさに起きていることである。被害者は中国や韓国であり、「隣人」というのがこの日本に他ならない。
    冒頭に述べた母方の家族に起きた虐殺行為は、南京大虐殺の生き残りである夏淑琴さんが実際に受けた被害事実だ。
    夏淑琴さんは、私も代理人となった「731・南京大虐殺・無差別爆撃訴訟」の原告の一人である。また、「学者」を自称していた極右の東中野修道教授が夏淑琴さんを「ニセ被害者」と中傷した名誉毀損事件でも、私は夏さんの代理人の一人を務めた。これについては今年1月の私のコラムでも言及してある。
    もう一つの父方の祖母の受けた強姦被害は、中国人「従軍慰安婦」一次訴訟の原告の一人である李秀梅さんが受けた現実の被害事実だ。李秀梅さんは中国山西省の盂県という辺境の村で、旧日本軍の軍人に拉致されて数ヶ月にわたり強姦され続けた。
  6. 「狂った状況」への邁進
    この夏淑琴さんと李秀梅さんの被害は、私自身が関わった事件であって間違えようのない確固たる事実である。裁判所の判決も当然これらの事実を認定している。これほどまでに悲惨で残虐極まりない加害行為を日本軍は行っていたのであり、しかもこれは本当に本当に氷山の一角に過ぎない。
    ところが、このように厳然として存在している否定しようのない事実に対し、加害者の側が被害者の側に対して「ウソつき」呼ばわりしているのが現在の日本の状況なのである。しかもインターネットを見てみれば、もはや南京大虐殺を否定する勢力、「慰安婦」に対する性奴隷状態を否定するような勢力が、むしろ圧倒的多数となってしまっている。この倒錯しきった状況はいったいどういうことなのか? なぜ、加害者が被害者を声高に「ウソつき」「売春婦」と指弾するという、狂った状況がまかり通るようになってしまっているのか?
    これは正真正銘危険極まりない状況である。この国は、社会全体に真っ赤なウソデタラメが蔓延してしまっている。これはファシズムの萌芽でもある。
    しかも私は、その「狂った側」の国家に所属している人間なのである。人間として、これほどまでに恥ずかしいことがこの世にあるだろうか。それこそ私は、穴があったら入りたい。こんな状況は、冒頭のように悲惨極まりない被害を受けた本当の被害者の人たちに対して、とても顔向けできない。
    のみならずこの国は、ますますこの狂った状況に邁進しようとしている。この狂気の事態をさらに推し進めようとしているのが、A級戦犯岸信介の孫である安倍晋三であり、自民党政権や日本維新の会である。
  7. 驚くほど「我慢強い」中国人と韓国人
    ま、中国と韓国が「歴史認識問題」で国際的に日本を批判し始めている。しかし私に言わせれば、彼らが今まで我慢し続けてきた方が信じられない思いでいる。
    冒頭の例のように、自分の祖父母や曾祖父母の世代が日本軍による虐殺や強姦の被害に遭った事例など、中国や韓国には大量にある。私が中国で聞いたときには、「身内に日本人による被害者のいない人を探す方が難しい」というのが実態であった。それほどの被害を現実に受けているのに、これまで彼らが主張してこなかったことこそが驚異的である。
    彼らは被害者の側であるにもかかわらず、これまで隣人である日本に期待して、いつか気付いてくれるだろうと希望して、日本を批判することを控えてきた。それを裏切り続けてきたのは、私たちの方だったのである。
    どうかみなさん、冷静になって考えてほしい。「歴史認識問題」と言ったって、500年1000年前のことが問題になっているのではない。たかだか80年ほど前のことだ。昭和の時代のことだ。こんなレベルのことで、事実が根本的に食い違うことなどあり得ない話だ。
    まともな歴史学者で、極右が主張するような「南京大虐殺はでっち上げ」、「慰安婦に強制連行された被害者などいない」といった狂った主張に同調する者などあり得ない。日々事実認定に取り組むことを生業とする私たち弁護士においても、この手の主張を真剣に取り上げている者など圧倒的少数である。事実というのがどういうものであるか、私たちは身に染みて知っているからだ。確かにおかしいのは一部にいるけれども。
  8. 中国人と韓国人の「民族的記憶」
    私の母親は1938年生まれだが、1945年の東京大空襲の際に、親に手を引かれて逃げ惑ったことを明確に記憶している。みなさんにもこの当時東京に住んでいた親族がいれば、その多くが同様の経験をしているだろう。そういう人たちの子孫たちは、親からそれぞれの体験について聞かされていることだろう。だから、仮に誰かが「東京大空襲はでっち上げ」という主張を試みたところで、「こいつは頭がおかしいのか?」としか思われない。これを私は、「民族的記憶」と称している。
    逆に事実が本当にでっち上げられて、「1945年3月に東京に落とされたのは原爆だった。東京は原爆被害に遭った」と日本国が主張したとしよう。しかし私たち民衆は、そんなのがウソであり、「民族的記憶」に合致しないことだと知っている。だからいくら日本国が「落とされたのは原爆だった」と主張したいと思ったとしても、そのような「でっち上げ」は民衆自身によって否定されるだろう。
    したがって、仮に「南京大虐殺」や「慰安婦」がでっち上げだったというなら、まさに中国や韓国の民衆自身から、そうした異議を唱える声が怒濤のように巻き起こるに違いない。私の知る限り、中国人の自己主張意識は非常に強いものがあるし、韓国人の感情的な対応には強烈なものがある。それこそ大人しい羊の群れのような日本人と違って、このような中国や韓国の民衆を、国家が黙らせておくことなどできるはずがない。
    実際には中国人や韓国人の誰も、「南京大虐殺など聞いたことがない」、「慰安婦に強制された女性などいなかった」などと言い出す者はいない。事実は逆で、中国の民衆も韓国の民衆も現在の日本に対し強い憤りを表明している。
    それこそまさに、大小の「南京大虐殺」、大小の「性奴隷制度」が日本による侵略の実態だったからに他ならない。これこそが、中国人や韓国人の「民族的記憶」そのものだったからに他ならない。
    こうしたことは、問題を一度でも自分自身に引き寄せて考えてみれば、容易に理解できる。それを認めようとしない人間がいるのは、その根本に中国人や韓国人に対する抜きがたい蔑視意識があるからとしか、私には理解できない。
    もちろん、教育による影響もあるだろう。しかし「民族的記憶」と異なる「でっち上げ」を、億の単位の国民に植え付けて疑問を持たせないことなど現実的にできる訳がない。
    また、中国にしても韓国にしても日本の侵略に対抗して独立を勝ち取ったことが、現在の国家の礎となっている。そのような国家独立の経緯を国民に教育することは、国として社会として当然のことである。それを「反日教育」だと論難する方が、頭がどうかしている。
  9. 「危険」すぎる現状
    現在の日本は非常に危険である。安倍晋三政権を未だに過半数の国民が支持しているなど、私には狂気の沙汰としか思われない。
    もちろん、経済的問題は極めて重要だ。私たちは霞を食って生きていくことはできない。いわゆる「アベノミクス」が妥当なものなのかどうか、経済学の門外漢である私にはわからないが、しかしこの世には経済よりずっと大切なものがある。人間としての最低限の節度、倫理観はその一つだろう。
    想像を絶する被害を受けた被害者に対し、加害者の側が「ウソつき」と口を極めて非難中傷するなど、人として絶対にあってはならない暴挙である。私たちは加害者の側に属する人間として、本来ならこうした倒錯した言論を根絶し、被害者に対してもう一度深く謝罪しなければならないはずではないか。そうすることによって初めて、被害者も本当の意味で加害の側の人間を許すことができるだろう。
    奇しくも、日本維新の会の桜内文城衆議院議員が、5月27日に外国特派員協会で行われた記者会見で、「慰安婦」問題研究の第一人者である歴史学者の吉見義明中央大学教授の著書について、「これはすでに捏造であることが、いろんな証拠によって明らかとされております」と発言する事件が起きた。これまでも常に極右勢力から付け狙われてきたであろう吉見教授は、臆することなく桜内議員に対し名誉毀損として損害賠償と謝罪広告を求める訴訟を提起した。私はこの事件の弁護団の末席に参加させていただいている。

あなたは、人間としての最低限のモラルを通す側に立つのか、それとも反対の側に立つのか。今こそ、そのことを根底から考えていただきたい。

 

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