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コラム・弁護士

 
   

弁護士は事件によって鍛えられる

穂積 剛

2006年10月
弁護士 ・ 穂積 剛

法律家になる方法は,私たちのときには司法試験に合格するしかなかった。しかし司法試験とは,法律的なものの考え方の基本が身についているかどうかをテストするだけの試験であり,司法試験に合格したからといって,法律家として一人前になれるわけではない。司法試験合格後,私たちの頃は2年間の研修を司法修習生として司法研修所で受けてきたが,これとて法律家の卵を割って出てくるような過程に過ぎない。まして私などは,司法修習生の時代は勉強なんかしないで,人権問題にばかり興味を示し,後は酒を飲むだけだったから,研修所ではろくな勉強もしなかった。

それでは,弁護士は何によって一人前になるかというと,それは事件によってであろう。一つ一つの事件が目の前に持ち込まれたとき,私たち弁護士は依頼者の希望要望を理解して,その有利な解決のために最大限の力を注ぐ。その過程で,いろいろなことを学び,経験して少しずつ成長していく。

法律実務に就いてから,もうすぐ丸10年になる。その間に何が私を鍛えてくれたかというと,それは紛れもなく一つ一つの事件だった。中でも特に鍛えてくれたのは,困難な事件である。その典型が労働事件であり,また弁護士になって以来取り組んでいる戦後補償事件だ。

労働事件の現場はシビアである。

一般に裁判官は,本人たちが意識しているかどうかは別として,どちらかというと体制側の人間が多い。そのため,体制側ではない個人や労働組合が,使用者たる会社側と争うというときに,会社の責任を認めさせる訴訟活動は容易ではない。裁判所はなかなか会社を負けさせたがらないのだ。

そして労働事件では,訴える側になるのは解雇された個人や少数労働組合であって,たいていの場合彼らは社会的に弱者の立場におかれている。そのような弱い立場の個人が,会社のような組織を相手に訴えるというのは,相当な覚悟と精神力を必要とする。家族の協力がなければ闘うことすらできない。まさに,人生を賭けて争っているといっても過言ではない。しかも一介の労働者は,単に立場が弱いだけでなく,証拠となる資料もほとんど所持していないことが多い。

一方で会社は,資金も潤沢だし,資料も手元にある。まだ勤続中の同僚に,「あいつは仕事のできない奴だからクビになって当然だ」というような陳述書を,たくさん用意させることも全然難しくない。会社にとって,このようなトラブルは数多あるうちの一部に過ぎないし,負けてもそれほどダメージを受けることはない。

このような労働事件において,私は一貫して労働者の側,労働組合の側に立って事件を遂行してきた。労働者にとっては一生に一度といってよい真剣勝負において,精神的にも肉体的にも経済的にも苦しく困難な事件を労働者たちが必死に闘っているとき,弁護士も全身全霊を込めて「勝つために何をすべきか」を考え議論しなければならない。

会社の状況はどうか,社会情勢はどうか,労働組合運動は組織できているか,会社の側は何を考えているか,裁判所はどういう問題意識を持っているか,法的な争点で問題となりうるところはどこか,法廷でどのように争う姿勢を見せることがこの紛争を有利にさせるか,どうやって証拠を使い,どのように尋問していくか等々,挙げていったら切りがないほど「勝つ」ために様々なことを考える。断言してもいいが,一般的に言えば会社側の代理人は,労働者側の代理人ほどに考え尽くしてはいない。

こうした困難な労働事件を数多く手がけてきたことで,明らかに私は鍛えられてきたと思う。勝つことは難しいが,しかし勝たなければならない事件であるからこそ,全力で事件に取り組む。その経験が弁護士を鍛えるので,私の知っている労働弁護士たちは,おしなべて誰もが極めて優秀だ。

私は中国人の戦争被害賠償請求事件にも取り組んでいるが,こちらの方は,労働事件に輪をかけて困難を極める事件である。

相手は日本国という巨大な存在であり,逆にこちらの原告は,日本に強制連行されたり,「従軍慰安婦」にさせられたり,南京や平頂山などで問答無用で家族を虐殺された非力な中国人たちである。

戦後補償裁判は,「戦争賠償問題は決着済み」との公式見解を表明している日本国政府を被告にしているから,国を敗訴させるという決断を裁判所がするということは,国家の公式見解と異なる判断を裁判官が下すということになる。一般的には「体制側」がほとんどを占める裁判官たちに,このことを決断させることのハードルは,極めて高くて険しい。

まして,中国人の戦後補償裁判での被害者たちは,中国に居住しているから,普段の訴訟では来日することもできない。被害者の顔が見えなくては世論の支持を得にくい上に,この国では島国根性が未だに根強く存在し,日本人の被害には同情的でも,中国人が被害に遭ってもほとんど同情されにくい。
このような困難極まりない訴訟を遂行し,何とか中国人戦争被害者たちの権利を実現していこうとする運動は,これ以上ないほどに難しい課題である。たいへん困難な問題であるが故に,弁護団はこの訴訟においてもありとあらゆることを考え尽くす。考え,議論し,検討し,計画して実行に移す。その「実行」も,非常に厳しい実行の連続である。

この困難を極める訴訟の遂行によって,私はずいぶん鍛えられたと思う。これも私に限らず,戦後補償裁判をともに担っている仲間の弁護士たちは,いずれも優秀な人たちばかりだ。

労働事件や戦後補償事件などの困難な事件が,現在の私を作ってきてくれたことに私は感謝したい。いずれも非常に困難で,時間も手間もかかるし頭も絞り出すほどに使う事件であるが,それこそがむしろ貴重な体験となっている。これからもそれは続いていくことだろう。

事件によって,私は弁護士として徐々に鍛えられてきたと思うが,しかしその分酒量が増え,肉体的にはほとんど鍛えられた状態ではないのが残念である。

 

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