先日、関東弁護士連合会の依頼で、「私の一週間」という記事を書いた。これは各号に関弁連管内の弁護士会から一人だけ選ばれて、その弁護士の一週間の活動を紹介し、他の弁護士の参考にしようという趣向である。関弁連の広報委員である私が書くのもどうかと思うが、名指しで依頼があったのだからしょうがない。
得てして、弁護士は「忙し自慢」をしたがる傾向が強く、忙しい程ステータスが高いと思われているフシがある。「いやー、昨日も2時まで仕事しちゃったよ。」などと言う輩も多いが、「へー、大変だね。体大丈夫?」くらいに答えることにしている。本当に大変そうなら心配もするが、皆笑顔で言ってんだから大丈夫なのだろう。このコラムは友人の弁護士も多数読むであろうから、誤解のないようにフォローしておくと、別に私はそういうのはキライではないし、バカにもしていない。ニュートラルな尊重の姿勢である。もっとも、私は遊ぶのと寝るのが好きので、夜はさっさと8時頃家に帰り、ご飯を食べて、トレーニングをして、お風呂に入って、12時前には寝ることにしている。私のコラム第1回「ハードボイルド編」の頃とだいぶ変わった。
おっと話がそれてしまった。関弁連では、そういう忙し自慢になっては記事が面白くないので、出来るだけ、趣味や社会活動、郷土色を出すよう、注文を付けている。最初の頃は、あっちの裁判所に行ってどうこうとか、こっちの警察署に行ってどうこうとか、日常の弁護士さんの活動が書かれた原稿が出てくることが多かった。「みんな忙しいんだなー」ということはわかり、それはそれで興味深いのであるが、読み物としては変化に乏しいきらいがあった。それで、確か甲府の弁護士さんの回だったと思うが、僭越ながら注文をつけ、「せっかく甲府なのだから、『お昼に、豚肉入りほうとう大盛りを食べた。ほうとうを食べるなら○○屋だ。これで午後の尋問はバッチリだ。』とか、『夕方の委員会のあとはクラブ○○に行った。○○のママはなかなかいい女で、弁護士会でも評判だ。』とか、そういう郷土色を出してください。」とメールで打った。今気がついたが、ママは郷土色と全くなんの関係もなかった。
その弁護士さんは、この無礼な注文をきちんと受けてくれ、「家に帰ってから信玄公祭りの神輿担ぎの練習に行った。地元の付き合いは大事だ」、「山梨学院大で講義をした。山学大は駅伝だけではなく、山梨の文化の中心たるべく努力をしている良い学校だ」という二つの話題を加えてくれた(内容不確か、後の方は最初からあったかも知れない)。これで内容が格段に充実し、以降、この路線を踏襲して各号に一人ずつ一週間を紹介するという記事が輪番で書かれてきた。私は二周り目のトップバッターである。
本文中にもあるが、先週はソフトボール大会と三連休で、なんだか遊んでばかりいたような日程となっている。「忙しくないんだなー。こんな弁護士もいるんだなー。」と思われる向きも多いと思うが、さすがにそれは誤解というもので、本当はもう少し忙しい。もしかしたら「忙し自慢」のアンチテーゼを書きたかったのかも知れない。
〜 以下、関弁連2006年12月号記事「私の一週間」10月30日〜11月5日まで
■まず、私の日課からお話すると下記のとおりである。
私は毎朝7時30分に起きる。起きて、リビングルームの掃除機かけをして、朝ご飯を作る。味噌汁と納豆と青菜と漬物以外に、焼き魚などのおかずを一品作ることにしている。別に病的な清潔好きとか独身であるとかではない。1月に娘が生まれたため、妻は寝かしつけが大変で朝は疲れているので、ご飯作りは私の役割となり、ついでに娘がハイハイして回るリビングのホコリを取っているのである。遅くできた子供は可愛いと言うが、本当にそのとおりで、毎日イソイソと家事をこなしている。ご飯を作りながら、8時のBSニュースを見て、15分に連ドラが始まる頃に妻子が起き出してくる。
朝は9時に家を出て、府中駅で11分の特急に乗り、新宿の事務所に入るのは10時少し前となる。10時に地裁で弁論があるときには、20分早く出る必要があり「嫌だなー」と思うが、一般のサラリーマンの人たちが聞いたら呆れられそうなので、表では口にしない。
仕事を終えて、夕方家に帰るのは8時頃となる。以前より、随分早くなったが、子供が小さいうちはしょうがないと諦めて、仕事はセーブしている。家に帰ると、ご飯作りを手伝い、食後は食器洗いもしくは娘の相手をする。その後、10時頃から上の階にある自室でウェートトレーニングを30分間行う。心身ともにマッチョな弁護士を目指している。そのつもりが、ついついゲームなどをやってしまい、激しく後悔することも多い。ちなみに、この間まで「さかつくヨーロッパ」というサッカーのゲームを夢中でやっていたが、このソフトはまだ作り込みが甘く、ゴールキックがディフェンダーの尻に当たってオウンゴールになったのを見て激怒し、売り飛ばしてしまった。次回作に期待したい。
トレーニング終了後、風呂場に娘を向かえに行き、着替えさせて、入れ替わりに自分が風呂に入り、大体12時頃に寝るという生活をしている。
■そういうわけで、仕事自体は一般の弁護士さんよりもかなり少なめであると思われるが、今週(10月30日の週)はいろいろとイベントがあった。
(1)まず、月曜日は、朝から事務所でメールチェックや起案などの仕事をし、午後は2時から4時30分まで府中市役所で法律相談だった。新宿発午後1時の特急で府中まで戻り、駅の南にある「フォーリス」というショッピングセンターの1階の食堂で天ざるを食べる。さすがに890円ではグルメとまでは言えないが、まあまあまともである。2時前に市役所に入るが、相談室は、窓もない暗い密室のうえ、イスが硬く必ず尻が痛くなるのが難点だ。相談は大体どこの無料相談もそうであるが、離婚と相続が殆どで、たまに売掛回収などが混じる程度である。著作権法とか改正商法の事件などには一件もお目にかかったことがない。
相談は6名連続で入るため、終わったあとはさすがにぐったりとなるが、地元に貢献したいという意識で頑張っている。ところがこの日は、「先生、相談の回答欄なんですが、とても分かりやすくて面白いのですが、情報公開で開示されることもまれにあるので、もっとシリアスに書いて下さい。」とダメ出しされ、ションボリと帰る。
法律相談が終わると、日も傾き、ウラ寂しい感じとなって、勤労意欲も多いに減退するのであるが、さすがに自宅に5時前に帰るというのもどうかと思うので、何か用事を一つ入れることにしている。この日は、地元府中の顧問先である某建設会社に行き、筋骨隆々の職人にまじって、社長と就業規則の打合せをした。
(2) 火曜日は、朝11時から神奈川簡裁で調停があった。神奈川簡裁は、横浜の手前の東神奈川駅から徒歩5分のところにある。今時珍しいマッチ箱のような裁判所だったが、最近リフォームして建て増しをした。自宅からは、南部線で川崎に出て、京浜東北線に乗り換えて2つ目である。府中に自宅を構えたのは、横浜にも八王子にも浦和にもアクセスがよいということも理由の一つである。この日は、既に、手続外で先方の代理人と話がついており、調書を作るだけであったが、代理人が35分遅刻してしまいイライラした。が、自分も遅刻するときはあり、そのへんはお互い様なので、頭を下げて貰って快く了解した。
その後、事務所に戻り、夕方まで起案等の仕事をし、7時に事務局のО君とともにドンキホーテに行き、ソフトボールを2つ購入した。翌日は年に一度の大イベント、某弁護士団体のソフトボール大会なのである。私自身は団員でも何でもなく、また顧問先の若手社員M氏や、友人のY弁護士なども引き入れており、参加資格はまことに怪しいが、所詮レクレーションなのでバレたところで失格になったりもしないだろう。うちは金満球団を標榜しており、皆で大森のホテルに前泊し、ネオン街での前夜祭で鋭気を養い、翌日タクシーで会場入りしている。しかし毎年のことながら、鋭気を養うはずが大酒を飲んでしまい、朝から午前中にかけてはヘロヘロの状態でのプレーすることとなる。
(3) 水曜日は、朝10時30分に球場に集合である。例によって二日酔いでオエオエ言いながらタクシーで駆けつけ、キャッチボールなどしつつアルコールを抜く。ちなみに私はレフトで4番という重責を担っているが、今年は全く打棒が奮わず、なんと三つも三振してしまい、来年は7番に降格される可能性がある。ソフトボールは球が遅すぎてどうにもタイミングがとりにくい。幸い初戦を7対3で突破したものの、その後3連敗を喫してしまい、13チーム中11位という成績に終わった。なぜトーナメントで初戦を突破して半分より上の成績でないのか、レギュレーションは謎である。4時頃に終わってシャワーを浴びて全体の打ち上げが終わってもまだ5時半だが、すっかりあたりは暗くなっている。毎年ソフトボール大会で年の終わりを知り、しんみりした気持ちになる。季節感というのはよいものだ。その後浜松町で痛飲したのは言うまでもない。
(4) 翌木曜日は、三日酔いと筋肉痛で、動きがスローモーとなるが、朝10時から相模原で裁判があるため、朝9時の急行に乗り、調布を経由して橋本でY弁護士と待ち合わせ、二人でオエオエ言いながらタクシーで簡裁に駆けつける。手続はすぐに終わり、再び橋本駅に帰り、サンドイッチを食べながら打ち合せをし、12時頃に新宿に帰る。相模原は東京近郊にあるのに電車の便が悪く、いつも半日仕事になるので、なるべく一日に他事件の期日も入れることにしている。午後は、事務所で打ち合せが2件あり、終わったのが7時半で、帰宅は8時半であった。
(5) 翌金曜日から三連休なので、娘を連れて、一日くらい実家の群馬の藤岡に帰ろうと思っていたが、初日は関越が56kmの渋滞ということで諦め、床屋に行ってしまった。この原稿も三連休中に書こうと思っただが、書きかけの原稿をフロッピーに落としたまま事務所に忘れてしまい、モヤモヤしたまま無為に過ごすこととなった。それで2日目は府中の巨大電気店ヤマダ電機に行き、無線ランカードを買うが、CD‐ROMドライブを事務所に忘れて設定ができず、さらにモヤモヤ度が高まった。連休中は、掃除やご飯作りに追われてあっと言う間に2日がたったが、最後の11月5日に実家に帰ることにした。すでに2日間の大渋滞で皆が嫌気がさしたのか、高速道路はスカスカに空いており、快適な連休最終日であった。
■こうしてみると、なんだかろくに仕事もしないで遊んでばかりいるように見えるが、たまたま今週がこうだっただけで、普段はもう少し仕事の度合いが高い。皆さんの参考には全くならないと思われるが、一応、私の今週一週間をご紹介した次第である。 |