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コラム・弁護士

 
   

「利権」化する「単独親権」

後藤 富士子

2021年7月

弁護士 ・ 後藤 富士子

1.「連れ去り別居」と「婚姻費用分担」

妻が、ある日突然に子どもを連れていなくなり、居所を秘匿したまま弁護士から夫に通知が来る。弁護士が「唯一の連絡窓口」となって、父子の交流を妨げる「ガードマン」になる。このような「連れ去り」「引き離し」自体、大問題である。しかし、それが無収入の妻で、頼るべき実家もないとなると、一体どのように生活していくのだろうと不思議に思う。是非は別にして、半世紀前までは「生活のために我慢」というのが一般的であった。

私が、妻から相談や依頼を受ける場合、「DV事案」では最初に身の安全を確保する手立てを講じるが、その場合でも根本的には離婚問題である。身の安全が脅かされていないケースでは、当面の住居を失うことがないようにするのが先決である。どちらにしても、離婚に至るまでのプロセスを本人にイメージしてもらう。このような生活ベースの話になると、具体的な生活レベルと資金の関係が見えるのである。そうすると、そもそも「別居しない」という選択に至ることもあるが、別居する場合には、「離婚後の生活」のスタートになるので、生活資源の調達に注力する。そして、将来長く続く自立生活のためには、夫からの婚姻費用や養育費が大きな比重を占めるにしても、「主たる生活資源」とすることはできない。

一方、私の依頼者は圧倒的に夫であり、子どもが連れ去られたうえ、算定表の「婚姻費用分担」を迫られ、支払えないと強制執行される。個別事件で考えれば、算定表による金額では当該夫の生活が破綻することが目に見えていても、お構いなしである。子どもが複数なら一層大変である。

さらに、妻が遠隔地の実家に連れ去った場合、父が子らの居住地で面会交流するためには交通費(航空運賃、電車)や宿泊費(子どもと宿泊するのではなく、面会交流のための前泊ないし後泊)で、僅か2〜3時間の面会のために1回8〜10万円もかかる。そのために現地へ往復する時間・費用に見合う面会交流拡充(土日連続など)を求めると、逆に、頻度を減らせ(2〜3か月に1回)と妻側から言われる始末である。そして、面会交流に要する費用は婚姻費用として考慮されるべきだと主張したところ、なぜか「1万円」だけ算定表の金額から減額する審判がされた。このケースでは、もともと夫には支払えない金額である一方、妻は田舎の実家にいるので生活費はそれほどかからないのである。 こうして夫側で見ていると、妻が子どもを連れ去るのは、生活資金を得るためではないかと思われる。すなわち、「子は金蔓」というわけである。

2.賃金体系、健康保険、扶養控除、児童手当・・・

妻の「連れ去り別居」から2年半、子どもが5歳のときに離婚が成立したケース。夫の勤務先は「子育て支援」の賃金体系を採用しており、離婚した前年の年収は約620万円だったが、離婚により「単身者賃金」となり、離婚後は100万円以上年収が減額になった。かといって、すぐに養育費減額の申立てをするのも憚られるから、算定表で機械的に養育費を決めるのは問題が多い。

また、企業に勤務する会社員(夫)のケース。健康保険で被扶養者となる子がいる場合、それに連動して「借上げ社宅」が提供される。ところが、妻が子らを連れ去って別居したので、子らを共同監護に近い環境におくために、子らが徒歩で来れる場所に「借上げ社宅」を変更してもらった。一方、妻も正社員としてそれなりの収入を得ているため、子らを自分の被扶養者とすることによって得られる経済的利益が大きい。そこで、「被扶養者」をめぐって、夫婦間で紛争になったのである。

健康保険法は、最近まで改正されているが、驚くことに大正11年に制定されたことを初めて知った。それで、民法の制定を調べたら明治29年であり、昭和22年制定の戸籍法よりも大昔である。それはともかく、健康保険法で定められた「被扶養者」とは、「主としてその被保険者により生計を維持するもの」とされている。そこで、夫婦のどちらが「主として子らの生計を維持しているか」という問題になる。ちなみに、別居前後を通じて子らは夫の被扶養者であったし、婚姻費用分担調停合意が成立している。一方、夫が所属する健康保険組合のホームページでは、被扶養者削除手続が必要となる例として「離婚」が挙げられているが、これは離婚によって親権者でなくなった場合であろう。

このように、単独親権制に起因する紛争は、「子の身柄の奪い合い」にとどまることなく、経済的利益を巡る争奪戦まで引き起こしている。さらに、児童手当、扶養控除、児童扶養手当、生活保護等々、未成年の子の養育を名目とした給付も種々ある。

すなわち、もはや「単独親権」自体が利権と化している。しかも、子の「最善の利益」だけでなく、親権を失った親の「人生」をも台無しにするほど害しているのである。それを放置しておいてよいはずがない。そのためには、「単独親権制」を廃止すれば足りるのである。

3.「少子化」の背景にあるもの

幼い子がいる夫婦の離婚事件に関与していると、日本社会は「子育て」の優先順位が極めて低いのではないかと実感させられる。「子どもは社会が育てる」という標語があるが、そんな絵空事の「建前」を臆面もなく言う人は信用できない。直接子どもに支援が行く施策は乏しいし、「子育て」優先の家族政策があるわけでもない。むしろ、別居や離婚により、子の身柄を確保している片親に経済的利益がころがりこむ。一方、「子育て」支援に厚い企業の経済的恩恵を受けていた父親は、それを失うから、「家族」総体としてみれば、貧困化する。

こうしてみると、離婚後の絶対的単独親権制が、少子・高齢化社会に拍車をかけているのではないかと思われる。しかし、「親権」は子が成人するまでのものに過ぎないし、「人生百年」の時代を考えると、長い人生行路のごく短期間、しかも重要な時期を、「親権争い」など人を消耗させる離婚紛争に費やしていいはずがない。「離婚の自由」を認めるなら、むしろ当事者が「よりよい人生」に踏み出すための手続に改革されるべきではないか。それによって不利益を被る人や困る人は、いないはずである。

 

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