太平洋戦争が終わり、GHQが占領していたころの話しとして、つぎのあたった服で震えているやせっぽちの子供たちが、ジープに乗った半袖一枚のアメリカさんにまとわりついてチョコレートをもらったという逸話をよく聞く。本当かウソか分からないけれど、芋のツルをうっすーい味噌汁の具にして食べていたなどという話もあるくらいだから、東京とか横浜あたりでは見られる本当の光景だったのだろうと思う。
鎖国状態の今でこそ、いかにも観光客っぽくプラプラしている外国人を見ることはなくなったが、ついこの間までは、浅草や歌舞伎町、鎌倉や富士山に行けば日本人より多いんじゃないかくらいの外国人が観光を楽しんでいた。ジープに乗った外国人も、その外国人にまとわりついてチョコレートをねだる日本人ももういない代わりに、うちわをパタパタしながらたこ焼きをほおばる外国人や、道に迷っていそうな外国人に果敢に話しかける日本人も多く見るようになった。
ところで外国人と言ってもシミズには、アジア系、アラブ系、欧米系くらいしか見分けがつかない。しかも、欧米人と言っても、アングロサクソンとゲルマンとラテンを分けろと言われたらもうお手上げ。おまけにトルコ系のドイツ人とか、インド系のイギリス人とか、人種と国は一様ではないから、「どこの国の人か」は本当に分からない。
そんな中でも、なんとなく嗅ぎ分けられる(気がする)のが「アメリカ人」だ。ゲルマン系だろうがアフリカ系だろうがアジア系だろうが、
薄着
この特徴があれば、ほぼ間違いなくアメリカ人だと思っている。
夏でも冬でもTシャツに短パン、足元はサンダル、というのがアメリカ人の定番だ(←完全に偏見)。「肉を食べてるせい」と、これまた都市伝説のように言い伝えられているが、イヌイットは生肉を食べていても頭まで覆う毛皮を着ている。結構涼しくなってもTシャツ短パンで通しているのを見ると、食べものの違いだけでない、ヒトとしてのDNAがまるで違うのだと思わざるを得ない。
まぁTシャツ短パンならアメリカ人と言っていいが、ただの薄着の人という可能性もなくはない。最終兵器は「鼻」だ。アメリカ人を見分ける最後のリトマス試験紙が柔軟剤の香りだ。ダウニーだかファーファだかバウンスだか知らないが、いつでもどこでも「洗濯機から出したばかり」みたいな香りをさせている。あの香りがすればアメリカ人だし(←やっぱり偏見)、しなければただの薄着の人だ。
さて、話は変わるが、今年の東京は猛暑日が1日か2日しかなかったらしい。Tシャツに短パンがピッタリ、という日も少なかったはずだ。緊急事態宣言にかこつけてあまり外に出なかったせいもあり、あっという間に秋が来たイメージだ。人に会えば「こんにちは」「暑いですねー」とあいさつしていたのがウソのようだ。
ただ、すっかり涼しくなったとはいえ、マスクをしていると今ひとつ外気の涼しさを感じにくい。「20度だ、よし!」と長袖を着たら、事務所に着くころにはすっかり汗をかいてしまい、クーラーで甘やかされた体質に長袖は早かった、と反省した。20度はまだ半袖でちょうどいいな、と未だ夏の服装でプラプラしているシミズであった。
そう、マスクのせいで「すっかり涼しくなったのに長袖を着られない」症候群。略してSSNS(Sukkari Suzushikunattanoni Nagasodekirenai Syndrom)。
つい先月まで「熱中症に気をつけましょう」なんて言っていたくらいだ。マスク1枚で気分は1度(平穏時)から5度(活動時。いずれもシミズの体感)違う。気温20度でも、張りきって歩いた後だと25度くらいに感じるということだ。そりゃ長袖は暑いよー。
「まだ長袖は早いなー」と感じる人はわたしだけではなさそうで、通りに目をやるとTシャツの人は普通にたくさん歩いている。新宿だからかもしれないが、へそが見えるTシャツや、たくさん切れ目を入れたのかひもをつなぎ合わせただけなのか分からないズボンを履いた人もいる。暑いから、というより単にファッションなのかもしれないけれど、涼しそうでいいなぁ、と思う。
かくいうシミズも、事務所に出てくるときはカットソーにパンツ、程度の服装で体裁を繕っているが、家にいるときや近所をウロウロするときはTシャツにひざ丈に切ったジャージにサンダルだったりする。
いぇーい!見た目だけならアメリカ人(だらしないタイプ)だぜっ!
と、何やら人種が変化して開放的なキャラクターになったような錯覚に陥る。ド日本人のシミズのDNAは、年がら年中つけているマスクがCRISPER−Cas9となって、とてつもないメタモルフォーゼを遂げたとしか思えない。
このままマスク生活が続くと、さらなるメタモルフォーゼを遂げて、マライア・キャリーみたいになったり(ならねーよ)、アナ雪のエルサみたいになったり(アメリカ人じゃなさそうだし)、スーパーマンみたいになったり(地球のいきものじゃないし)するかもしれない(ならねーよ!)。
いや、待てよ、嬉しくないメタモルフォーゼだってありうる。サルっぽく毛深くなってしまうかもしれないし(これはありそう)、マスク下でもたくさん空気を吸えるようカバみたいに鼻の穴が大きくなってしまうかもしれない(これもありそう)。過酷な環境でも生き抜けるように爬虫類っぽくなってしまうかもしれない(逆になってみたいかも)。
マスクをつけたイモリ。
女子高生あたりからは「かわいー♪」と好評を得そうだが、お客さんや取引先からは一様にドン引きされる予感がする。裁判所も入り口で止められるんだろうな。
メタモルフォーゼはアメリカ人どまりにしておいてもらうのがよさそうだ。
ところで何度になったら長袖にしたらいいんだろう? |