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コラム・弁護士

 
   

日本が見習うべき韓国の身分登録制度

穂積剛

2021年10月


弁護士 ・ 穂積 剛

1. 相続人調査  

相続関係の事件を処理するときに、必ずやらなくてはならないのが相続人調査である。 亡くなった方の相続人として誰がいるのか、戸籍を調べて調査しなければならない。

こうした場合に裁判所からは、故人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍を揃えることを要求される。

比較的若い方ならともかく、祖父母やそれ以前の世代の遺産分割処理が終わっていない場合などがあり、そうなると大変である。

 

2.戸籍謄本・改製前原戸籍・除籍謄本の収集 

戦前は戸主制度となっていて、戦後の戸籍のように親と子という二世代だけの記載ではなく、戸主、配偶者である妻、その子供たち、さらに子供の配偶者や孫たちまでが一つの戸籍に記録されている。昔は子だくさんだったし、4世代が一つの戸籍に載っていることも珍しくなかったので、それだけでも面倒だった。

戦後になって戸主制度は廃止されたが、その場合でも娘が婚姻した場合には、婿養子をもらったのでない限りほとんどの場合には配偶者である夫の戸籍に入ることになる。それが離婚して子供と一緒に新たに戸籍を作り、その後に再婚してまた別の夫の戸籍に入っていたりするので、追いかけるのに非常に手間がかかる。しかも昔の戸籍は達筆の手書きだったので、それを読み解くのも一苦労だった。

世代の古い方の場合には、戦前の戸主制度から戦後になって現在の戸籍に改製されていたりするから、探すのにさらに手間がかかる。戦後の戸籍も現在の形式になるまでに何度か改製が行われてきているので、改製の都度その前の原戸籍を取りなおさなければならない。

そのため古い戸籍の収集が難しいときには、13〜15歳くらいの戸籍まで遡れば許してもらうこともある。それ以前の若さでは、いくら何でも子供を作っていることはないだろうと思われるからだ。

 

3. 韓国憲法最高裁での「性差別」違憲判決 

面倒な作業だと思いながら、これまではやむなく戸籍の収集を行っていた。 しかし現代において、こんな面倒な戸籍制度が実質的に続いているのは日本だけのことだ。そのことを痛感したのが、韓国の相続問題を扱うことになったことだった。 日本は戦前に朝鮮半島を植民地支配していて、日本の戦前の戸主制度に基づく戸籍が韓国では戦後も続いていた。

ところが韓国の憲法裁判所が2005年、この戸主戸籍制度について性差別に該当する規定があるとして違憲判決を下したのである。ここが、アホの見本市のような日本の裁判所とは決定的に違うところだろう。

この違憲判決に基づいて韓国では戸籍制度が廃止され、2008年から家族関係登録法に基づく「家族関係登録簿」によって、身分登録がされるようになった。これは戸籍制度とは違って、完全に個人単位の身分登録制度となっている。

 

4.韓国の「家族関係証明書」 

この「家族関係登録簿」は、「家族関係証明書」や「基本証明書」、「婚姻関係証明書」など5種類の証明書によって構成されている。ただしそれぞれについて、証明する範囲の違いにより「一般証明書」と「詳細証明書」の区別がある。

このうち「家族関係証明書」には、本人の父母、本人の配偶者及び本人の子供だけが表示される。

「基本証明書」には、本人の出生と死亡、登録基準地(本籍地)の変遷、親権者や後見人の情報などが記載されている。

「婚姻関係証明書」は文字どおり婚姻に関する表示で、「一般証明書」には現在の婚姻関係が表示され、「詳細証明書」の方にはこれまでの婚姻履歴がすべて表示されることになる。

例えば「家族関係証明書」の実例は、次のようなものとなっている(日本評論社『「在日」の家族法Q&A』第3版より)。これは日本語訳のサンプルで、実物はもちろんハングルで表記されている。

※クリックするとサンプル画像をダウンロードします。

 

5. 韓国身分登録制度のメリット 

この制度がすぐれていることの一つは、相続関係を証明するのに戸籍をさかのぼる必要がないことだ。

死亡の事実は「基本証明書」で証明され、親子関係は「家族関係証明書」で証明される。兄弟姉妹関係だけは「家族関係証明書」に表示されないので、その場合には両親の「家族関係証明書」を取らなければならない。しかしその場合でも日本の戸籍のように、改製前の原戸籍をいくつもさかのぼって取り寄せなければならないということもない。これは非常に便利なことだ。

またこのやり方は、家族単位ではなく個人単位の身分登録制度になっているので、「家」という概念に縛られる危険性に結びつかない。あまりにもアホすぎる日本の裁判所のせいでこの国では未だに選択的夫婦別姓すら採用されていない(中国も韓国もとっくに夫婦別姓である)が、夫婦別姓制度によりなじむのは、こうした個人単位の身分登録制度の方だろう。

 

6. 残存しているデメリット 

ただし実際には、韓国でこの新しい身分登録制度が採用されたのは2008年からのことなので、それ以前の家族関係を調べるには戸主制度による戸籍謄本(現在は除籍謄本)を取り寄せなければならないことに変わりがない。「家族関係証明書」は、2008年以降の家族の死亡については記載されることになるが、それより前に亡くなった家族はそもそもこの書面には書かれない(父母の死亡の場合には記載される)。だからそれ以前に亡くなった兄弟や子供がいたのかどうか、そしてその亡くなった兄弟や子供にさらに子供(甥姪や孫)がいなかったのかどうか調べるには、結局は除籍謄本までさかのぼって調べる必要が出てくる。

このように韓国のこの制度は、現状では万全とは言えない。これらの証明書の申請資格者が、本人と配偶者、それに直系尊属(父母や祖父母)、直系卑属(子や孫)に限られるとされているのも、個人情報の保護に寄せすぎているのではないかと疑問に思う部分がある。

 

7. 日本で目指すべき方向 

けれども、制度導入から数十年が経過してくれば、以前の除籍謄本を取り寄せなければならない機会は相当に減っていくだろう。そうすれば、現状の「家族関係証明書」や「基本証明書」などを数種類取得するだけで、相続関係調査を済ませることができるようになる。これはとても便利だと思う。

日本では旧態依然として、選択的夫婦別姓もなければ、LGBTQに関する同性婚制度、差別禁止法制やトランスジェンダー関連法なども整備されていない。

今や反動極右集団(「保守」ではない)と化した自民党が政権を取り続けている限り、世界標準から丸3周は遅れているのではないかというこの状況は一向に改善しないだろう。 しかし、将来において個人の尊重がより重視される社会状況に進化していくためには、韓国のこうした制度を見習って個人を基軸においた身分登録制度を新たに構築していくべきではないか。日本はすでに周辺諸国に劣後しているのだから、進んだ制度は積極的に見習って取り入れていくべきだと思う。

 

 

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