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コラム・弁護士

 
   

「選択的夫婦別姓」はアヘンなのか?―現在の法制度を打破するには・・・

後藤 富士子

2024年11月

弁護士 ・ 後藤 富士子

1.「別姓を選択できないのは女性差別」なのか?

民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めている。つまり、婚姻時にどちらの姓を称するかは、夫婦の任意な選択である。その結果、約95%の夫婦が夫の姓を選択している。だからといって、女性差別といえるのだろうか?なお、国連女性差別撤廃委員会の4度目の勧告内容は、「女性が結婚後も旧姓を保持できるよう、夫婦の姓の選択について法改正をする」というものである。

しかし、95%の夫は、現に「旧姓を保持」しているが、「旧姓を保持できる」法的利益がないわけではない。「旧姓を保持できる」利益は、夫も妻も平等である。たとえば、サイボウズの青野社長夫婦は、婚姻時に妻の姓を称することにした。そうしたところ、彼が保有していた株式などの資産の名義変更が必要となり、その手続費用が莫大な金額に上ったという。それで、彼は「選択的夫婦別姓」の旗手になった。でも、「女性差別」とは無縁である。

一方、「選択的夫婦別姓」の制度設計は、夫婦の合意により別姓を選択できるとする。つまり、「別姓の合意」が要件となっているのであり、合意できなければ別姓を選択できない。これでは、夫も妻も「旧姓を保持できる」制度とは、本質的に別物である。実際、当事者の生の声を聞くと、@「夫婦別姓」を望んでいるのではない、A婚姻で姓が変わるのが嫌なのだ、という。

 こう考えてくると、「選択的夫婦別姓」制度は、男女ともに「旧姓を保持できる」制度とは背反する。男女ともに「旧姓を保持できる」制度は、夫婦別姓を基本として同姓を選択できる「選択的夫婦同姓」になるはずである。換言すると、「選択的夫婦別姓」という民法改正案は、40年近く民意を誤導してきたというほかない。

2.「事実婚」こそが現行制度を打破する

日本人は、「法律婚」に拘るようである。でも、日本の「法律婚」制度は、「夫婦同姓」など、憲法第24条1項が定める「両性の合意のみで成立する」というのに反し、やたらに余分なものが多いのである。それを考えると、法律婚優遇政策は、誰のためなのかと、疑問になる。私には、「戸籍」という国家が個人を管理するための制度を守るために、法律婚を優遇しているように見える。

一方、同性婚やトランスジェンダーのカップルの存在は、改めて結婚の私事性ないし私的自治領域を思わせる。現に生きている人間は、千差万別の個体であるから、その時代の「法律婚」制度になじまないで「はみ出す」ことはあり得る。そうしたとき、「法律婚」の枠内に参入するための法改正を求めるのは、自滅行為のように思える。

「選択的夫婦別姓」についても同じで、「法律婚」の枠内に参入するための法改正を求めて40年も無駄にしている。むしろ、「旧姓を保持できる」ようにするには、「事実婚」を実践することである。国家の干渉を排して、個人としての夫婦が自律的に結婚を営めばいいのであり、それは可能である。

「法律婚の優遇」を求めるなら、国家の干渉も受容するほかない。しかし、「法律婚の優遇」は「事実婚の差別」と裏腹であり、憲法第24条だけでなく、憲法第14条にも反する。結婚について私的自治を行えるなら、むしろ事実婚差別と闘うべきであろう。個人の幸福追求は、国家に庇護されるものではなく、個人が尊厳をかけて闘いとるものではないだろうか。

 

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