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コラム・弁護士

 
   

わたくしとサンマ

鈴木 周

2009年5月


弁護士 ・ 鈴木 周 もはやわたくしのコラムは弁護士稼業と全く関係ないものになりつつあるというか、完全になっているが、もうここまでくると男らしく貫徹するほかないと思って、従来の路線を突き進むこととする。

わたくしは、新潟市で過ごした少年時代からサンマが好きであった。家がそれほど裕福でなかったこともあり、安価かつ美味で、ゴハンの進むおかずは大変ありがたかったのである。高校のときは運動部にいたこともあり、食べ盛りであったので、毎食ラーメンどんぶりでゴハンを一杯半平らげ、「ウウム、苦しい、動けない」と横になってウンウン言っていたものだった。大酒飲んでウンウン言っている現在とはえらい違いだ。

三つ子の魂なんとやら、わたくしは今でもサンマが大好きである。秋になって生サンマが出回るようになると、スーパーに行ってもイソイソとサンマのワゴンを目指してしまう。娘と一緒に、「サンマさん、こんにちは」などと、あいさつまでしているくらいだ(実話)。この時期のサンマは、まるで鍛造ステンレスのようにピカピカしており、首の後ろがモッコリ盛り上がっていて、お腹もパンパンで脂が乗って、見るからに旨そうだ。2匹入りを買うなんてのは論外で、1匹入りのを入念にチェックして、2つ買うのが買い物上手というものだ。

しかし、サンマというのは、時代を超えて、なぜいかなるときも100円なのだろう。あんなに食べるところが沢山ある美味しい魚が100円とは、サンマさん本人にもずいぶん失礼な話だと思う。ハタハタなんて、あのブチブチを除いたら、ロクロク食べるところがなく、てんでオカズにならず、サンマさんとの実力差は歴然だ。おっと、親しみのあまり、「さん」付けになってしまったが、以下、客観表記に戻す。昨年は原油高で漁師さんがサンマを取っても取っても赤字になってしまい、操業ストまで起こったが、あれはスーパー側が1匹100円を前提に仕入れを組んでいるからであろう。誠に気の毒な話で、原油高のときはサーチャージつけて5割増くらいにしても全然構わないと思う。それでも150円だし。

そういうわけで、サンマに限らず魚大好きのわたくしは、魚を食べるのが上手だ。サンマなんて、キレイに頭と背骨だけになってしまう。マンガでドラ猫が咥えて塀の上なんか歩いてるようなアレだ。よく、「なにそれ、どうやって食べたの?」と聞かれるが、要は頭と背骨以外のものを全部食べればそうなるのであって、別に技術が要るようなものではない。

が、しかし、そのわたくしも「これは到底敵わない」と感じた先輩がいる。とても忘れ難い人で、それが今日の本題だ。

その日、わたくしは1時10分から東京地裁で弁論があったので、12時50分に裁判所地下の食堂に行き、たぬきソバ(360円)と混ぜゴハン(200円)を食べていた。食堂はさほど混んではいなかったが、気がつくと私の向かいに50絡みのやや頭髪のたそがれた弁護士さんが腰を下ろしていた。トレイに載っているのはサンマ定食だ。

 こんな地下食のサンマなんて、どうせ冷凍に決まってるし、身も固くて、オレは嫌いだよ、などと思って見ていたら、なんとその弁護士さんは、箸でサンマをつかんで、首をちょっと前に伸ばしたと思ったら、突如頭にバクっとかじりついた。それは、ハラペコ状態の動物が、矢も楯もたまらず生命維持のため獲物にかぶりつくような、明確な意思を伴った力強い動きだった。思わず、少年時代飼っていた石亀が、気絶した魚の頭にかじりついた情景を思い出したくらいだ(本当)。

弁護士さんは、そのままワシワシとゴハンをかき込み、ボリボリという音とともに頭を噛み砕き、ゴクリと飲み干して、ズズーっと味噌汁をすすった。わたくしは、「先輩、それ、おいしんでしょうか」と心の中で問いかけたが、先輩は、はやくも次の攻撃に出、胸ヒレから3センチばかりの一帯にかぶりつき、首を左右に振ってブッチリと食いちぎった。わたくしは、「先輩、いまの部分、すごい苦いんじゃないでしょうかね。だいたいバナナじゃないんだから、その食べ方どうかと思いますよ。」と心の中で思ったが、先輩は構わずワシワシと覇気のある動きでゴハンをかきこんだ。

そして、先輩は3口目もバクッとやったが、それには身も凍るような危険物が含まれていた。わたくしは、「せ、先輩、今のには背ビレが入ってましたよ。ちゃんと噛み砕かないと、逆さに入ってつっかえたらエレイことですよ。不可逆ですよ、血を吐きますよ。」と心の底から心配したが、んなことは関係なく、先輩はモグモグゴキュっと飲み込んだ。目が白黒していたところを見ると、やはり多少の抵抗感があったのだろう。

背ビレさえクリヤーしてしまえば、あとは大した障害はない。尾びれなんてツルッと入っていくことだろう。そのようにして、先輩は、本当に、文字通り、跡形もなくサンマを平らげ、味噌汁の残りをズズーっと飲んで、サッと席を立った。本来食事とはこうあるべきという強いメッセージをわたくしに残して去って行ったのである。わたくしは、その後姿を見ながら、「先輩、今日は本当にいいものを見せてもらいました。わたくしもこれから精進致します。」と感謝の言葉を投げかけたのであった。

その後、わたくしは魚を食べるのが一層上手くなった。鮎なんかは完全にバナナ状態だ。が、サンマさんは、やっぱりどうも頭と背骨を残してしまう。もちろん、おいしくないというのも理由だが、骨格標本のようにキレイに食べ切るのもまた楽しみの一つであるように思うからだ。原始と文明の狭間というと、先輩は怒るだろうか。んなこた先輩には関係ないか。

 

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