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コラム・弁護士

 
   

「検察」の暴走と「三権分立」

穂積 剛

2010年6月


弁護士 ・ 穂積 剛

三井環という人物がいる。もと大阪高検公安部長(検察官)で、検察庁における裏金問題を実名で告発しようとしていたところ、大阪地検特捜部により逮捕された。2002年4月22日のことである。

このとき三井は、現職の検察庁幹部として実名で検察庁の裏金問題を告発することを決意し、5月の連休明けにまず朝日新聞が一面トップで記事を出し、次いでテレビ朝日の報道番組『ザ・スクープ』での鳥越俊太郎キャスターからのインタビューを報道し、さらに民主党の菅直人が衆議院法務委員会で三井を証人喚問して裏金問題を追及する、という筋立てで動いていた。

ところが三井のこの動きを察知した検察庁は、三井の口封じをするために、『ザ・スクープ』の収録が予定され鳥越キャスターと会うことになっていたまさしく当日、4月22日に三井をパクった。

検察庁の裏金作りの手法は、年間7億円も計上されていた「調査活動費」を、実際には情報提供者などいないにも関わらず、架空の領収書を作成して架空の人物が「調査活動費」を受け取ったことにし、その資金を裏金に回していた。こうして作られた裏金は、各地方検察庁の検事正(地検のトップ)、日本に8つある高等検察庁の検事長(高検のトップ)ら検察庁最高幹部らの飲食や接待費などに使われていた。このような行為は疑問の余地なく、有印私文書偽造同行使、詐欺、虚偽公文書作成罪などに該当する明白な犯罪行為である。

パクられた三井は、その後微罪と汚職の犯罪を追求され、懲役1年8ヶ月の実刑判決を受けた。刑事事件そのものを子細に検討したわけではないので真偽はわからないが、パッと見る限りではとても実刑になるような事案とは思えない。三井は検察権力を敵に回したが故に、報復措置として刑務所行きを余儀なくされたとしか考えられない。

もっとも高裁判決は、「検察庁のいわゆる調査活動費の不正流用は、検察の幹部だった被告人が体験した範囲の中で、事実だったと言わざるをえない。被告人が報道機関に公表することを当時、検察庁が憂慮していたと推測される」旨を判示して、検察の裏金作りが事実であったことを一部認定している。裁判所が検察庁の裏金作りを判決で認定したのだから、これ自体が大きなニュースである。

こうした経過があり、1999年頃は全国で年間7億円あった「調査活動費」は翌年には5億円になり、近時は7000万円台で推移しているという。もともと不要な費用だったことは、この数字の経緯からも明らかだ。

三井は、判決が確定したのちの2008年10月17日に収監され、大阪拘置所では持病の糖尿病の治療もさせてもらえずに死線をさまよい、さらに検察庁の横槍によって仮釈放も認められず、ついに今年の1月18日に満期出所した。

これらの経過については、出所してきた三井が著した『検察との戦い』(創出版)に詳しいので、参照されたい。読み始めたら途中で止められない面白さである。この経過から見て明らかなように、検察庁は自己防衛を図るために三井の口封じを図った。

これがいい例だろうが、近時検察が「暴走」していると言われる。

昨年の衆議院議員選挙の前に、政治資金規正法違反という微罪であるにも関わらず、東京地検特捜部が小沢一郎の身辺(元秘書)を捜査したのもその例だろう。これまでは、選挙の前の時期に検察が政治家がらみの事件を扱わないことは不文律となっていた。この件は、いったんは検察が小沢を不起訴にしたものの、検察審査会が起訴相当の議決をしたため、地検が再捜査をして判断する段階にある。まさにこれも、夏の参院選の直前の時期だ。

検察と小沢との闘争を、単なる「政治とカネ」レベルの認識でとらえるとしたら、これは完全な誤りである。問題の本質はもっと深いところにある。この問題は、「三権分立」の問題として認識しなければならない。

憲法の統治理論の最大の目標は、「基本的人権の尊重」である(憲法11条)。そして歴史上、基本的人権をもっとも踏みにじってきたのは、他ならぬ国家権力であった。そこで国家権力に基本的人権を守らせるために編み出された原則の一つが、「三権分立」という統治機構であった。

すなわち国家の権力を「立法」「行政」「司法」の三つに切り分け、「立法」が作った法律に従って「行政」を行わせ、そうした「立法」権「行政」権の行使の実態が、憲法に適合しているか、基本的人権を侵害していないかどうかを「司法」に判断させる。「三権分立」はさらに、行政権の主体である内閣に衆議院を解散する権限を与え、立法府が裁判官に対する弾劾裁判を行う権限があるものとし、さらに内閣に最高裁判所長官の指名権や裁判官の任命権を与えた。

このように憲法の統治機構は、「立法」「行政」「司法」がそれぞれ牽制し合って権力を行使することによって、権力の濫用を防いで基本的人権を侵害することがないようにとするシステムを構築しているのである。

ところが戦後一貫して、この国では自民党の一党支配が続いてきた。自民党は官僚と馴れ合い官僚の言いなりだったから、もちろん「立法」と「行政」との対立などほとんど生じない。戦後一貫して裁判所は「立法」と「行政」のやることに追随する判断ばかりしてきたから、もはや「三権分立」はこの国では有名無実ではないかという事態にまで陥っていた。

そのなかで、戦後初めて「官僚支配打倒」を掲げて政権を奪取したのが民主党政権である。民主党はこれまでの官僚の権利や権益(その代表例は天下り)を制限する施策を打ち出してきた。そうであれば、既得権益を侵される官僚が抵抗するのは当然である。官僚が有する飛び道具が、検察や警察などの捜査機関であった。

立法府の重要人物である小沢一郎を検察が狙うのは、これまでの官僚機構を維持しようと「行政」が「立法」に対し抵抗しているからである。鳩山首相の献金問題が狙われたのも、「行政」による「立法」に対する抵抗の一つである。こうした「行政」の飛び道具の行使に対し、「立法」の側は国会議員の不逮捕特権(憲法50条)、発言評決の無答責(憲法51条)によって憲法上保護されている。

小沢と検察との争いは、このように「三権分立」の一環だと見るべきである。特に自民党政権下で擁護されてきた官僚の権益を、民主党政権が奪おうとしているために起きている紛争だという視点を忘れてはならない。これは「三権分立」という統治システムにおいて予定されている争いなのであり、このことは三権分立という立憲主義的統治機構を有する国家として、むしろ正常なことなのである。

問題は、現段階での争いが「立法」と「行政」との間だけで起きているであることだろう。最高裁が行政機構の追認機関と堕してから久しいが、普段は死んでいる最高裁がときおり息を吹き返して「司法」っぽい判断をすることもごく稀にある。私としては、「立法」「行政」「司法」が適正に牽制し合って争う正常な「三権分立」状態に、早くこの国が至ってもらいたいと希望している。

 

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